建築士資格持ちの私がレオパレスの界壁施工不備問題を見て思ったこと

2019年2月20日

2019年初め、レオパレス21の界壁施工不備が問題になっています。お施主さん達は本当に気の毒だと感じます。

でもこの問題って普通は起こりえない絶対に防げるはずの問題で、凄く不可解なんですよね。
私は建築士の資格を持っていて、レオパレスのように規格商品(金太郎飴のようにどこでも同じ建築物を建てる)の重層長屋・共同住宅の建築業務を経験したことがあります。ここでは、私なりにこの問題について言及してみようと思います。もちろん、私はレオパレスとは無関係の人間です。

レオパレスの物件で何が起こったのか

当社施工物件における界壁施工不備問題の対応について – レオパレス21

メーカー公式ページ。

レオパレスは小屋裏界壁が施工されていないことが判明しましたと言っています。
端的に言うと、「隣の部屋との間の屋根裏の壁が必要なのに、それがなかった」ということです。詳しくは界壁施工不備問題の概要についてのページの真ん中らへんに図解があるので見てもらえればどこのことか分かります。(赤く色付けされた部分です)

私は直接その施工を目視したわけではないのであんまり色々と「こうだった」と言うことはできないんですけど、「施工されていない」ということはその壁の仕様が間違っていたとかではなくて「壁自体なくてツウツウだった。各住戸と1つの小屋裏空間を仕切り無しで共有していた」ということですよね?
当該ホームページの文言を引用するとこんなふうに表現しています。

  • 小屋裏・天井裏まで達するように設ける必要があります。

  • 界壁の小屋裏・天井裏部分について施工不備が発見されております。

「法律で定められているのに屋根裏を壁で仕切ってなかった」とか「付けなければならない壁が設置できていなかった」とかハッキリ書いていなくて、実際どういう施工だったのかが建築士を持ってる私でも分かりにくい表現なんですよ。

なんか、この辺を分かりにくくぼんやりと書くあたりにレオパレスの企業体質が見て取れるというか・・・お施主さんにこれを読ませて失礼だと思わないんだろうか。私が施主だったらこれ読むだけで「ナメてんのか」って腹が立ちますよ。

レオパレスが主張している2つの不備発生の原因と、私なりの感想と指摘

原因1. 図面と施工マニュアルの整合性が取れていなかった:(施工業者に渡している図面と施工マニュアルの整合性に不備があったことが確認されております

業務上、軽微な図面変更を繰り返した場合、最新の図面を取り違えることは十分に起こり得るミスです。でもそれがたとえ特注であったとしても、どのバージョンでも「建築基準法を満たしているはず」なんです。

なのでこれは施工不備の言い訳になりません。レオパレスが施工不備の発生原因として最初にこれを掲げていることに何だか不誠実さを感じますね。

原因2. 社内検査体制に不備があった:(検査は行ってはいたものの、規格商品であることから図面等と現場との照合確認が不十分であった

要するに名ばかり検査だったということです。

そもそも、「規格商品であること」が、「現場での照合確認がおろそかになる理由」にはなりませんよね?

むしろ、チェックするべき部分と状態が毎回同じなのですから、確認しやすいし、ミスに気付きやすくなるはずなんです。でもそれさえも出来ていなかったというのは、余程ずさんだったのでは・・・?と思わざるを得ません。

(例えば、いつもは木造の規格商品なのに、いきなり特注の鉄骨の検査をしようと思ったら、どこをどう確認すればいいか戸惑うはずです。)

不可解な点

協力業者も分かっているはず

協力業者の職人さんだってそれでメシを食っているわけで、どう施工するべきか知っているはずなんです。

もう少し言うと、大手と協力業者は普通は勉強会というか、「うちの会社はこういう仕様なんで、ココとかココに注意して施工してくださいね」って協力業者を指導したりする立場のはずなんです。

現場監督も分かっているはず

いくら図面がおかしかったからと言っても、業者から指摘が入るはずだし、何よりも現場監督がそれを確認しなければならないはずなんです。

もっと不思議な点:確認検査機関は何をしていた?

私が一番解せないのは、確認検査機関がいたのになんで指摘がなかったの?ということです。

建築物は、まず確認申請を確認検査機関に提出して、それが受理・審査されて、確認済証交付を受けてから工事着工します。(フローチャートの例PDF

そして多くの建築は完成までに2回~3回の確認検査機関の検査(中間検査や完了検査)を受けます。どの段階で何回検査を受けるかは建築規模などによって異なります。レオパレスくらいの建築規模なら、申請や検査費用の合計は1棟につき20万円くらいが相場だと思います。

昔は、行政の建築主事に直接申請していましたが、1999年(平成11年)から民間開放され、指定確認検査機関がその許認可を代行しています。
恐らくレオパレスも民間の確認検査機関を利用しているのではないでしょうか?下記に民間の確認検査機関を使うメリットを書きます。

民間開放された確認検査機関を利用するメリット

本来なら申請書は各行政に提出しなければなりません。特にレオパレス21のように全国規模で建築している場合、同一の設計担当者が同じ期間に複数の色んな物件の確認申請を提出することは頻繁に起こりえます。

申請後にも図面や記載内容の不備があれば修正や差し替えなどを求められる場合もあり、申請者は出向くためにその移動だけで1日が終わってしまいます。なので、1箇所で全てを処理できるのはとても大きなメリットがあります。そもそも行政に直接提出する場合は差し替えとか修正とかそういう融通が利かなくて再申請するのが基本で、手軽さが全然違うのです。

私が携わってきた物件では、確認検査機関の検査員は中間検査に来た時点で「小屋裏までちゃんと界壁してくださいね!完了検査でもちゃんと確認しますからね!」と毎回のように念押しをして、実際、完了検査時にはお風呂場(ユニットバス)の点検口などに頭を突っ込み、隣との壁がちゃんと施工されているかペンライトなどで照らして確認していました。

レオパレスの物件も、そうやって外部の検査員がきて検査を受けて初めて入居できる状態になるんです。でもその建築に不備があった。

まとめ: 普通は起こりえない極端な異常事態

  • 職人もスルー

  • 現場監督もスルー

  • 内部検査でもスルー

  • 外部検査もスルー

確かに、図面が間違っていれば施工も間違えます。でもそれをこうやって全員が見落とすって、よほど些細な事でない限りは普通はありえないんです。大抵は最初の段階で職人さんが上手いこと収めてくれます。

でもそれが1棟や2棟ではなく、それも特定の地域だけでない複数棟で起こっているんでしょう?普通では考えられない事態です。で、これがレオパレスだけの問題かって私はそうじゃないと思うんです。

だって、例えば大学入試で受験生が足切り点だったのに採点者が適当な採点をして全員合格にしちゃった。受験生は合格通知が来たから大学に通ってたのに、3年目になってから「あ、あの採点は間違いだった。君は不合格だよ。出ていってね。」とか言われても学生も困るでしょう??それって学生が悪いんでしょうか??

もちろん、レオパレスの事業はCSR(corporate social responsibility, 企業の社会的責任)を伴うもので、一般の受験生の立場と同等とは言えませんが、お金を貰うだけ貰っておいて適当に合格のハンコをついている確認検査機関の責任や存在価値はどこにあるんだ?と感じますね。

建築

Posted by maa / 麻