『美味しんぼ』第95話「杜氏と水」の感想

1991年7月9日放送、アニメ版の『美味しんぼ』第95話「杜氏と水」をアマゾンプライムビデオで観ました。(美味しんぼTVシリーズ第109話)

あらすじ

杜氏の招聘

そろそろ梅雨も明ける頃か、山岡と栗田は2人とも夏の装い。
取材先から帰社途中の2人は偶然鉢合わせた中松警部から飲みの誘いを受けるも、まだ陽は高いので和菓子・獅子屋の喫茶室でお茶とお饅頭にしようと提案していると、目の前で2人の男が揉み合い始め、中松は2人を連行することになります。

清酒江戸一番の専務・均野法二は社運を賭けて新潟県の越後杜氏・喜山を招聘したものの突然就職を拒否されて揉み合ったといい、理由が分からない均野は頭を抱えます。

喜山が怒った理由

しかし話を聞くと、山岡らは納得します。

  • 新幹線の緑茶の容器が臭いのに何とも思わずに飲む(汽車土瓶ではなかった)
  • タバコを吸う
  • 東京に着いて入った喫茶店の水が不味いのに、気にも留めない

喜山が就職を断った理由は、味覚や嗅覚の機微に対して均野があまりに無頓着だったためでした。

均野の兄の利き水

しかし均野法二は経理と販売が専門で、実際の酒造りには関わっておらず味覚には疎いタイプ。山岡は均野の兄(社長)を呼び出し、の水のうち、どれが喜山の作った七ツ星純米大吟醸に使われている水かを当てる利き水をさせます。

  • 七ツ星純米大吟醸で使われている水
  • 岡星が使っている富士山の水
  • 美食倶楽部が使っている京都鞍馬の水

極めて鋭敏な味覚を持つ均野の兄は答えがロの水だと見事に言い当て、感銘を受けた喜山は自ら入社を申し入れます。

登場した料理、食材など

日本酒と杜氏(とじ?とうじ?)

杜氏

酒を作る人。

杜氏の読み方は「とじ」「とうじ」どっちでもいい。
由来は、昔の「主婦(年配女性)」を表す言葉「刀自」(とじ)に通じ、昔の酒造りは婦女の仕事で、その管理に主婦が当たったから。或いは、古代中国の酒造りの祖とされる「杜康」の名に因むとも言われている。

杜康

初めて酒を発明した1人と言われている。転じて、(特に古代中国の詩の中では)酒そのものを意味する。
杜康の息子である黒塔が手違いで酒樽を台無しにした時、偶然にも鎮江香醋(ちんこうこうさく、中国江蘇省鎮江市の名産である調味料で「中国三大名酢」)を発明したとも言われている。

杜康に言及している曹操孟徳の詩
短歌行の一節
原文現代語訳
對酒當歌酒を前にしたら歌うべきだ
人生幾何人生なんぞ幾ばくか
譬如朝露例えば朝露のように儚い
去日苦多過ぎ去る日々はあまりに多く
慨當以慷憤慨して気を晴らそうにも悲憤は積もるばかり
憂思難忘この憂いを忘れることは難しい
何以解憂何を以てこの憂いを解こうか
唯有杜康酒しかない

この詩では「杜康=酒」として使われている。

日本の杜氏の伝統的な出身地

  • 広島県:三原杜氏
  • 京都府、兵庫県:丹波杜氏
  • 岡山県:備中杜氏
  • 新潟県:越後杜氏
  • 岩手県:南部杜氏
  • 長野県:諏訪杜氏

七ツ星純米大吟醸

均野社長の評価: 最初にふんわりと舌の上に広がって、同時に爽やかな春の風が花の香りを運んできて、吹き抜けるように素晴らしい芳香が立ちのぼって、鼻腔をくすぐって逃げていく
舌の上に残る味はサラサラと解けていって、すっきりと消えていく。

純米、吟醸、大吟醸、これらの違いについては別ページでまとめていますので気になる方は参照ください。


名水

イの水(岡星が使っている富士山の水)

しっかりした味の像を形作る。クリスタルガラスのような実に透明な味。それが消え始める最後の瞬間、何の未練もなくふいと後味が消える。その潔さ、素晴らしいが七ツ星の味の性格とは違う。

ロの水

(言及無し)

ハの水(美食倶楽部が使っている京都鞍馬の水)

高原の若草の葉に降りた朝露の味。柔らかく、一切の不純な味がなく、すべての味を包み込み、そしてその味は余韻嫋々、美しく棚引いて消えていく。

感じたこと

七ツ星純米大吟醸の元ネタ

作中に登場する辛口で七ツ星純米大吟醸は喜山が以前勤めていた新潟の蔵元で作っていた酒の銘柄ですが、七ツ星という銘柄の日本酒は実在して、福井県の井波酒造の七ツ星がそれです。

ただ、地方が明らかに違うことに加え、同じラベルのボトルがネットで探しても見つからなかったので、実際にこれがモデルなのかは不明です。

他のページで日本酒のレビューをまとめているので、良かったらこちらもごらんください。


喜山の声優は麦人

麦人さんは『美味しんぼ』第71話「不器量な魚」に登場する「犀」のオーナー・森口直太郎の声優も務めていて、美味しんぼでの出演はこの2作のみ。

ちなみにクレジットでは喜山徹平になっていますが、作中では喜山徹(とおる)と呼ばれています。どっちのミスかな?

クーラーボックスは宙を舞わない

  • 一升瓶:約0.95 kg
  • 2升の液体:約3.6 kg
  • 内寸45 cm以上のクーラーボックス:約4 kg

合計すると約8.5 kgで、砲丸投げの砲丸(7.260 kg)より重いので、高さ4 mくらいは飛んでそうなあの描写はどうなのかな、と思いました。