『美味しんぼ』第96話「柔らかい酢」の感想

1991年7月16日放送、アニメ版の『美味しんぼ』第96話「柔らかい酢」をアマゾンプライムビデオで観ました。(美味しんぼTVシリーズ第110話)

あらすじ

鯖寿司のお土産

夏、京都。
夏の京都といえば祇園祭。文化部員らは大阪での取材の帰りに京都で途中下車し、山鉾巡行を取材後に東山を巡って料亭芝山で鱧料理。

帰りのタクシーでいせやに寄り、頼まれていた鯖寿司の土産を買う山岡でしたが、それを頼んだ人物が山岡より2つ3つ若い女性だと知ると、怒った栗田は鯖寿司2本のうち1本を取り上げ、女性陣で分け合って食べてしまいます。

唐山陶人の食中り

しかしその女性とは唐山領子でした。
アメリカから帰国している駐在員の兄や両親に食べさせたかった領子は仕方なく不足分を自分で作ったものの、陶人は鯖寿司に中って東都大学病院に入院することになり、料理下手は愛情が足りぬ故だと激怒します。

原因はお酢でした。領子の使っていたデリシャ酢は純粋な醸造酢ではなく工業用アルコールで増量した醸造酢だったため、酢の浸透が弱く、食中りに至った、と山岡は指摘。

鹿児島の黒酢

  • 領子の愛情が本物であると証明する
  • 領子の料理が上手にさせる
  • 究極のメニューに必要な材料探し

この3つを同時に達成するため、山岡らは鹿児島県の黒酢醸造所を訪ねます。

竹之下さんに黒酢の仕込み方を教わり、持ち帰った黒酢で鯖寿司を作った領子は陶人と仲直りを果たします。

登場した料理、食材

芝山で供された料理

  • 鱧の葛叩き

鹿児島県の黒酢

  • 米に麹菌を付け、麹室で寝かせ、酒を作るときよりも麹菌を多く繁殖させる
  • 瓶に麹、蒸した米、水を入れて仕込む 鹿児島の温暖な気候に瓶を委ねる
  • 瓶の水の表面に麹を振り撒いて、雑菌の侵入を防ぐ(振り麹)
  • 毎日かき混ぜて様子を見る
  • 出来の悪い瓶の蓋には目印として石を乗せる
  • 使用する米は7分搗きにして、糠に含まれる農薬の混入を防ぐ

黒酢を使った鯖寿司

  • 新鮮な鯖を三枚に下ろす
  • 鯖に軽く塩を振る
  • 3,4時間経ったら黒酢で塩を洗い流し、改めて黒酢に浸ける
  • 30分~40分でしめ鯖の完成
  • しめ鯖の薄皮を剥ぎ取り、背骨に沿うように2つに分けて血合い肉を取る
  • ゆるく絞った布巾の上に皮側を下にして身を置き、長方形になるように形を整える
  • 用意しておいた鮨飯を御飯茶碗2杯分を俵型に丸め、鯖の面積より幾分小さく広げる
  • 布巾毎1回転させ、しめ鯖と鮨飯が馴染むようによく押さえて、布巾の上から巻き簾を被せて形を整える
  • 同じ酢で柔らかく煮た昆布を巻きつける
  • 作りたてより、1日ほど寝かせたほうが味が馴れて美味くなる

ゴマサバ

鯖寿司に使ったのはマサバではなくゴマサバ。
士郎は「マサバの旬は秋、ゴマサバは2月から3月に産卵して、夏に旬になる」と言っていました。

でもある論文のデータのP.48を見ると、放送以前の期間は4月頃がピークで、1990年代以降はやや遅れている傾向にあります。幅も2-8月と広く、単純にゴマサバの旬は~、とかマサバの旬は~と一概には言えないように思いました。

また本作とは関係ない話として、世間ではゴマサバよりマサバの方が美味しいという信仰がありますけど、それもどうかな~と普段から思っています。

1970年から 1981年までは,卵の出現のピークは安定して4月であり,4月の産卵量が年間総産卵量の5割以上を占めていた(Fig. 6).1988年以降は,卵が2–8月に出現し,産卵量のピークは5–6月とやや遅れた

マサバ太平洋系群の繁殖特性の変化とその個体群動態への影響 – 渡邊千夏子

感じたこと

怒るクリコ

士郎: 二本って頼まれてたのに、1本減っちゃったら怒んだろうなぁ

クリコ: ホントに、誰に頼まれたんですか?

士郎: 女の人っ!

クリコ: オンナっ!

士郎: あ、オレより2つ3つ若いな

クリコ: ・・・まぁっ!貸しなさいよ!2本とも開けちゃおうかしら

・・・カワイイ。でも、士郎もさっさと説明すればいいのに、わざわざこんな言い方するなんて、冗談にしても何気にクリコの気を引こうとしてるのかと思うと、士郎も士郎でカワイイ。

竹之下さんの声優は村松康雄

竹之下さんを演じている村松康雄さんの演技が凄くいいですねー。元々劇団に居た方だからでしょうか、細かな部分が良い意味でアニメっぽくない。

京都の描写にちょっと違和感

祇園祭の背景

作中では「明治時代ですか」というような古くて小さな町家のような建物ばかり見えますが、祇園祭の山鉾巡行は京都のオフィス街・繁華街のど真ん中です。前祭なら四条烏丸からスタートして河原町を上がり、御池から再び烏丸通りへ戻るような中高層ビルの立ち並ぶ大通りを行くルートなので、作中の描写にはかなり違和感があります。

芝山の所在地

石垣が高いので白川ではなく鴨川なのかな?とも思えますが、祇園祭の頃ならみそそぎ川(鴨川から分岐している人工水路)には鴨川納涼床(通常の期間は5月1日~10月31日)があるはず、というかそれこそ描写すべき絵面なので、これは祇園白川なのかな。