『美味しんぼ』第97話「料理と絵ごころ」の感想

2022年11月17日

1991年7月23日放送、アニメ版の『美味しんぼ』第97話「料理と絵ごころ」をアマゾンプライムビデオで観ました。(美味しんぼTVシリーズ第111話)

あらすじ

芝浜の旦那の相談

大原社主は、一流料亭・芝浜の旦那から息子の有り様について相談。

行ってみると、若旦那の芝浜樹一は”料理は総合芸術。私はプロデューサーだ”、”海原雄山の美食倶楽部を超える料亭にする”と豪語。
見てくれだけで中身の無い若旦那の指針に、旦那は一代限りで店を畳もうかと悩みます。

芝浜樹一個展

後日、若旦那の個展が開かれ、招待された社主の代わりに山岡と栗田が出向くことになります。 (銀昌画廊 芝浜樹一個展 会場:営団地下鉄 銀座線表参道駅下車 徒歩7分)

料亭の若旦那だけあって食材を描いたものが多くあり、山岡はアユとスズキの画を見て若旦那には食材の目利きが出来ないと指摘。

鮎と鱸

真相を確かめるべく、芝浜の幹部を務める一流の料理人達に若旦那を画を見せると皆揃って若旦那の画に描かれた鮎と鱸が良い食材とは認めませんでした。

画の鮎は養殖もの、画の鱸は活け締めがなされていないという山岡の指摘に対して若旦那は素直に負けを認め、以降は河岸に通い、厨房に出入りするなど、まるで生まれ変わったかのように研鑽を積むようになりました。

登場した料理、食材

料亭芝浜で供された料理

カツオの塩辛、ジュンサイを使った料理

どちらも前菜。

オコゼの皮の唐揚げ、オコゼのお造り

タレはニョクマム。(ニョクマムは『美味しんぼ』第4話「活きた魚」で初登場)

感じたこと

描写の違和感

アユの画

鼻曲がり

例え天然で婚姻色の出た雄鮎でも、鼻曲がりの無い個体もいれば、養殖の立派な鼻曲がりもいるので、士郎の指摘はちょっと微妙というか的確とは言い切れない。

ヒレ

養殖か天然か以前に、本物のアユと比べて背ビレも尻ビレも尾ビレも形が全然違う。例えば実際のアユの尻びれは大きな三角形。また養殖でも天然でも、もっと黄色味を帯びた綺麗な色をしている。

士郎の解説シーンの鮎はその辺が綺麗に描写されててとても良かった。美味しそう。

体格

天然だろうと脂が乗った鮎はふっくらしているので、痩せている=天然鮎=美味しい丸みがある=養殖=美味しくないという論理はどうかと思う。

スズキの画

これはヒラスズキ(Lateolabrax latus)ではなく、スズキ(Lateolabrax japonicus)ですね。

顔と身体全体の体格

通常、上等な魚は身体が大きく、相対的に頭が小さく見える。転じて、「顔が小さい魚は美味しい」と言われている。また、太った魚の頭や頬は肉で覆われているのでふっくらして見える。
しかしフィッシュイーターであるスズキの顔は大きく、どんなに太ったスズキでも顔が大きく見えることはよくある。

画のスズキの顔だけを見ると、目が出っ張り、身がなくて良くないように見えるものの、体の割には顔が小さいのでかなり良い魚にも見えるので、士郎が言うほど悪い魚ではないように感じる。

体表面の色

回遊性、またはサラシに棲む居着きのスズキは体格や肉付きも良く臭みもない。体表面は銀白色で美しい。

一方、芝浜の料理人の持ってきたスズキはドス黒く、ブラックバスのような緑がかった色をしているが、これは居着きの臭みのあるスズキの特徴にそっくり。実際には緑ではなく黒っぽい。
ただし第6話「幻の魚」でも紹介した通り、居着き=臭いとも言い切れない。

活け締めの痕跡

一般的に、活け締めにした魚は市場で左側面(頭が左・腹が手前)を見せて売られる。これは皿に盛った時と同じ向きにすることで圧迫や打ち身の痕跡が表から見えにくくするためと云われている。
市場の売り手としては、見栄えが良くなるように活け締めの刃は魚の右側に入れる。なので士郎の「活け締めの跡が無い」という指摘はおかしい。(左側面に切れ込みを入れてる場合もあるっちゃあるけど)

活け締めの方法

士郎が説明している血抜きの方法については現代では異を唱える人が多い。実際、血が残りやすい締め方だけど、これは1990年頃のアニメなので、その指摘についてはここでは省略する。詳細はこちら↓↓↓

その他のシーン

活きたオニオコゼを目の前で捌く

『美味しんぼ』第4話「活きた魚」でも活け締めが大事だという話をして、この回でも後半で「高級料亭では活け締めの魚しか使わないはずだ」と言っておきながら、序盤で活オコゼを目の前で捌くというのは話の構成としてどうなんですかね(笑)

まぁ、オコゼは血がかなり少ないし、締めた直後の身はプリプリ感がしっかりあるので、事前に締めたものより歯応えは良いかもしれませんけど、構成を考えると別にこの回で出さなくても・・・と思っちゃいました。

で、以前オニオコゼを釣って実際に調理して食べた時のことをブログに残してたんですけど、気付かぬ内に芝浜の旦那と同じことを考えていた自分に、ブログを読み返してびっくりしました。

「身」は刺し身にして、「皮やアラ」は味噌汁か素揚げなど、別に調理した方が効率がいいと感じました。昆布締めも良いかもしれませんね!

青図の検印に赤い判子

作中に登場する青図(青焼きの図面)というのは、原図に検印したものを青焼き機(ジアゾ式複写機)で複写して出来たコピーです。なので、判子もコピーのはずなんですけど、作中では朱肉で実際に押した判子として描かれています。

純和風の料亭

◯◯風っていうのは、オリジナルではないからこそ◯◯っぽいという意味で使うのであって、純◯◯風純粋に◯◯っぽいって意味になると思うんですよね。この表現に前からずっと違和感があります。
ここでは(広義での)和様建築と言うのが本来かな、と。作中に出てくる建築が本当に和様・和式かどうかはともかく。

芝浜での席次

縁側から旦那が挨拶に来るシーン。谷村部長と大原社主の席、それに士郎とクリコの席は逆だと思うんですけど、どうなんでしょう?

と最初は思ったんですけど、よく見るとクリコの右手にも障子があるので、そちらが本来の出入口だとすると正しい席次ですね。

地下鉄表参道駅から歩いて3分、意外に近いじゃないですか

でも案内状には徒歩7分の記載。

毒舌クリコ

谷村部長: 自分の代で店を閉めるなんて、よほどあの息子が意にそぐわないんですね

クリコ: 確かにあの息子さんはキザったらしくて、あたしもタイプじゃありませんけど・・・

谷村部長: いやまぁ君のタイプはとりあえず置いとくとしてね

クリコ: あっはい

なんやこのやりとり(笑)

掛け軸「天上大風」、再び

若旦那が敗北を認めた部屋には掛け軸「天上大風」がありました。これについては以前第59話「代用ガム」でも紹介しましたが、今回はまぁまぁ内容と合っていていいなと思いました。