『美味しんぼ』第59話「代用ガム」の感想

1990年7月3日放送、アニメ版の『美味しんぼ』第59話「代用ガム」をアマゾンプライムビデオで見ました。(美味しんぼTVシリーズ第72話)

あらすじ

富井清一・修兄弟

雪でも降るんじゃないかと言われるほど、珍しく文化部員を飲みに誘う富井副部長に山岡と栗田が付き合わされます。
なんでも久しぶりに弟の修と会って食事をするとか。

料亭こと乃(琴野)で落ち合うと、2人は瓜二つ。ところがとても仲が悪そう。

富井修

株式会社 富井建興業の社長。(建築業)
兄は東西新聞社文化部副部長の富井清一。

小麦粉のチューインガム

富井の父の墓がある菩提寺が区画整理事業の区域に掛かり、それに伴って移設が必要になったそう。

父の13回忌ももうすぐで、富井副部長は幼少時代を懐古します。
ある日、近所の子供がチューインガムを噛んでいて、妬んだ修は駄々をこねます。見かねた父は小麦粉で代用ガムを作り、修はそれを噛んでやっと機嫌を治しました。

ところがその話を聞いて修は激昂します。
兄貴は大学にも行かせて優しかったのに、学者になりたかった自分は大学にも行かせてもらえず冷遇された、そして、小麦粉を捏ねてガムが出来るわけがないと兄の昔話をも否定します。清一もその場で強力粉を使ってガムを作ろうとしますが確かに食べると溶けてなくなり、とてもガムと呼べるものではありません。

グルテンとでんぷん

口直しに岡星で食べた生麩にヒントを得た山岡はその製法を発見します。

手の中の強力粉を水で洗いながら揉むと、でんぷん質だけが流れて、手のひらにはタンパク質のグルテンだけが残ります。代用ガムを食べた修は父親の惨めさと苦労を悟って涙し、兄と仲直りを果たします。

登場した料理、食材

蕗と生麩の炊いたん

フキはシャクシャク、生麩はもちもちで、食感のコントラストが美味しい。山岡はこの生麩を食べて代用ガムの製法に気づきます。

でも実は、粉から洗い流さなくても、捏ねた小麦粉を水で洗ってもグルテンは取り出せます。↓↓↓

感じたこと

掛け軸:天上大風

料亭こと乃にあった掛け軸には天上大風とありました。天上大風と言えば、良寛の凧。

良寛禅師

良寛(りょうかん、1758年11月2日-1831年2月18日)は江戸後期の越後国出身の書家、曹洞宗の僧侶。号は大愚。名は栄蔵。
「子供の純真な心こそが誠の仏の心」と解釈し、子供と遊ぶことを好み、子供達から「凧に文字を書いて欲しい」と頼まれた時には喜んで天上大風と書いたとされる。

そして、北大路魯山人も良寛に倣って天上大風の書を書いていて、良寛を次のように評しています。

良寛禅師は実に畏るべき美字を書きました。良寛の書こそうまい字であって、美しい字だ、好い字だといえます。世間にはうまい字が沢山ありますが、良い字というのは少ない。良い字というものは、他から見ると如何にも下手糞に見えるが、良寛の書は決して下手に見えない。いい形を持って、いい内容を有しています。内容外形ともに立派で万人に頭を下げさしています。私どもはいつも心から敬服致します。結局、良寛の書は、いいという内容と旨うまいという技術が具わっておる。この両方を兼ねるという事はなかなかむつかしい事で、古来、誰しもが望んで至り難い所とされています。

芸術的な書と非芸術的な書|北大路魯山人

天上大風の意味

子供の凧に書いたことから、「空には大風が吹いている、翻って、君の将来や人生もまた大きな志で云々」みたいなやたらと深い意味を持たせたがる解釈を見かけるんですが、これは良寛の他のエピソードも踏まえるとちょっと違うと感じるんですよね。

だって良寛はそういう世界が嫌だったからこそ名士の跡継ぎを捨ててまで出家したワケで、その瞬間瞬間を楽しもうとしていた良寛がガチガチに固定された身分制度の社会で子供が遊びで揚げようとしている凧にサラサラ~っと適当に書いた字にそんな想いを込めて書くとは到底思えないんですよ。

そういうところから、単純に凧が大風に舞えますようにくらいのノリで書いたんじゃないかな、っていうかそうであって欲しいんです。

いずれにしても、今回のエピソードとは何も掛かってないというか、もっと違う掛け軸でこの回を表現してたら尚面白いだろうなと思いました。もしも、もしもこの掛軸が富井兄弟の将来を暗示しているのだとしたら、それはそれで皮肉が利きすぎててえげつないでしょ。

うーん、賛成

くりこは岡星へ行く前に士郎に「うーん、賛成」っていうんですけど、何かもう先輩後輩って感じじゃないトーンと口調。

今でも覚えてる神回のひとつ

この回は子供の頃みた記憶が今でも残ってる名エピソードの1つです。
実際、理論が分からないまま士郎のマネをして小麦粉を手の中で洗って食べたこと、それが本当にガムっぽかったことを今でも覚えています。当時はその製法だけに気を取られていたように思いますが、歳を取ってから見返すと、兄弟の貧しさや父親の気持ちに心を打たれますね。

やっぱり私の中では第28話「トンカツ慕情」を超える神回です。

第47話「キムチの精神」でトミーが45歳だと知って衝撃だったんですが、それからどれくらい経っているのかは分かりませんが、父の13回忌ということは少なくとも30代前半で父を亡くしてたんですね。弟の修は今は40歳~くらいでしょうか。