SF映画『インターステラー』を観た感想

2020年12月24日

クリストファー・ノーラン監督による2014年のイギリス・アメリカSF映画『インターステラー』をプライムビデオで観たんですけど、これがまぁ実に良かった!途中まではネタバレ無しで行きます。
私の大好きなアン・ハサウェイが出てる!!!

概要

概要
タイトル原題初公開日ジャンル時間rating制作費売上監督
インターステラーInterstellar2014年11月7日SF映画169分イギリス
アメリカ
G, NR1億6500万ドル約6億7746万3813ドルクリストファー・ノーラン

制作費だけで約180億円、興行収入が約700億円の大規模な映画で、『ラ・ラ・ランド』の1.5倍。ちなみにタイタニックは制作費300億円、興行収入2200億円。(スケールおかしい)

あらすじ

世界的に軍隊も解体された近未来では、作物の疫病が流行り砂嵐が舞っていました。過去にあったアポロ計画はロシア経済を破綻させるためのデマで実体の無かったものとプロパガンダされ、農業従事者になることが強く奨励されるほどの食料不足。

NASA所属で空軍パイロットだったジョセフ・クーパーも農業従事者に転向していましたが、部屋に現れる奇妙な超常現象をきっかけに、人類が移住可能な星を探す宇宙探査船のクルーとしてラザロ計画に参加します。

ラザロ計画(The Lazarus missions)

ヨハネの福音書11章にある、ベタニアのマリアの弟LAZARUSをイエス・キリストが生き返らせたという話 ラザロの復活を元にした映画内での人類移住計画。

脳死とされる患者が自発的に手や足を動かす動作のことラザロ徴候(Lazarus sign)と言う。

クーパーとターズの会話が面白い

  • TARS(ターズ)
  • CASE(ケース)

作中には4本の角柱を組み合わせたような元海軍用のロボットが登場しますが、ターズはお喋りなので、ケースはそのぶん無口です。彼らの会話やジョーク、特にターズとクーパーとの会話と関係性がとても良い。

マッケンジー・フォイの演技に注目

クーパーの10歳の娘マーフィー・クーパー役を演じているのはマッケンジー・フォイ(2000年11月10日生まれ)。映画公開当時は14歳なのですが、彼女の演技がすごい。

しかも将来きっと美人になるなぁと思わせる容姿で、最近の画像検索をしてみるとまぁ美しいこと美しいこと。これからも楽しみです。
Mackenzie FoyのGoogleの画像検索結果↓

初見では絶対に読めない展開のワクワク感が良かった

大体の映画は展開のパターンがいくつか連想されてどれかに合致することが多いけど、これは絶対に読めませんし、期待以上の結末を見せてくれました。

3時間弱という長めの作品ですが、長くてだれるとか退屈を感じるということも無かった。
脚本や構成が良かったこともあるんでしょうが、映像自体に迫力があってすごくいい。更に映像と音楽・効果音との一体感がすごかったのもあるかもと感じました。それで名前を調べてみるとハンス・ジマー(Hans Florian Zimmer)でした。

音楽はハンス・ジマー

ハンス・ジマーは名だたる名作に楽曲提供やプロデューサーとして関わっています。ごく一部を紹介するとこんな感じ。

  • 『レインマン』
  • 『パイレーツ・オブ・カリビアン』
  • 『インセプション』(クリストファー・ノーラン監督)
  • 『ライオン・キング』
  • 『ザ・ロック』
  • 『アイ・アム・サム』 『バックドラフト』

『バックドラフト』は『料理の鉄人』のBGMと言えばピンと来ますか?

特に2010年の『インセプション』は2014年の『インターステラー』と同じクリストファー・ノーラン監督。
今回もハンス・ジマーに任せたということは、きっと期待があったんでしょうね。

SF映画『コンタクト』と『インターステラー』の製作者との繋がり

ある日、宇宙からの謎の信号をキャッチして異星人との接触を図ろうとする1997年のSF映画『コンタクト』にはクーパー役のマシュー・マコノヒーがジョディ・フォスターと共演しています。

むかし学生時代だった私もTVの深夜映画で一度だけ『コンタクト』を観て、面白かったことを漠然と今でも覚えていたのですが、なんとなんと、『コンタクト』の原作者はSF作家のカール・セーガンで、制作や指揮に関わった映画プロデューサーであるリンダ・オブストと理論物理学者のキップ・ソーンの2人はカール・セーガンが引き合わせたといいます。しかもリンダ・オブストは『コンタクト』の制作にも関わっています。

こう、むかし観た映画の製作者の繋がりを知るのも面白いし、自分が面白いと思った映画の製作者に同じ人が関わっているというのもまた面白いですね。

『コンタクト』のリンクはこちら。↓

クリストファー・ノーランの映画はどれも面白い!

実は、いざレビューを書こうと思うまでこの映画がクリストファー・ノーランの手掛けた映画だとは知りませんでした。

で、他者の夢に潜入して情報を盗んだり植え付けるSF映画『インセプション』をむかし観てすごく好きだったのですが、これもまた彼の映画だとは知りませんでした。

更に、最近宮台真司先生がやたら『テネット』を推していて気になっていたのですが、『TENET』(テネット)もまたクリストファー・ノーランの作品だったんですね。いやはや、俄然観たくなりました。

『テネット』のリンクはこちら。↓

印象的だった言葉

Do not go gentle into that good night
Old age should burn and rave at close of day;
Rage, rage against the dying of the light.
Though wise men at their end Know dark is right,
Because their words had forked no lightning they
Do not go gentle into that good night.
Rage, rage against the dying of the light

穏やかな夜に身を任せてはいけない
たとえ老いても 終わりゆく日に燃えたぎり怒るのだ
怒れ 怒れ 消えゆく光に怒れ
死の淵にある賢人は闇が正しいと知っている
彼らの言葉が稲妻を割ることは無かった
だから穏やかな夜に身を任せてはいけない
怒れ 怒れ 消えゆく光に怒れ

ネタバレになるので後述。

Don’t trust the right thing done for the wrong reason. The why of the thing, that’s the foundation.

正しいおこないが間違った動機ではいかん 正しい動機とは土台だ

これ、宮台真司先生が言ってた楽しい、しかも、正しいという話に似てるなぁと感じてて。クーパーは宮台先生のこの言葉を体現しているようでした。

マーフのお爺ちゃんは、好きで宇宙に行きたがっているクーパーをこのセリフでたしなめています。「お前が宇宙にいくというのは結果としては人類のためになるので正しいおこないだが、お前が宇宙好きだから行くというのは動機としてどうなんだ?家族を置いてまで。」と言いたげ。

でも実体としては、クーパーが宇宙に行きたいのは宇宙が好きでたまらないからであって、しかもそれが人類や家族のためにもなることだからこそ行きたいと思っています。決して使命感や自己犠牲が前提ではない。そこがお爺ちゃんとは違うなぁと感じました。

We’re just here to be memories for our kids.

親は子供の記憶の中で生きる(理由については後述)

Newton’s third law – the only way humans have ever figured out of getting somewhere is to leave something behind.

運動の第三法則ってやつだ 前に進むには何かを置いていかなければならない

私の中で珍しい★8受賞が頻発中

『戦場のピアニスト』の感想で「私が★8を付けるのは珍しい」と触れたんですが、それから間もなくこれを見て★8。いやぁ豊作です。ただ、知り合いに勧めたところ「退屈すぎて寝そうになった60点」と言われました・・・一般受けする作品だと思ってたので衝撃でした。

ネタバレありの考察や感想

ここからはネタバレありでいきます。

「穏やかな夜に身を任せてはいけない」の意味

上でも紹介したこのセリフはDylan Thomas(1914-1953)による本Do not go gentle into that good nightの引用。ざっくり言うと「死の間際になってもそれを素直に受け入れず最後まで足掻け、お前にはやり残したことがあるだろう」っていう感じなんですが、この引用は色んなシーンとリンクしています。

  • クーパーがマン博士にヘルメットを割られたシーン

  • 破損したエンデュランスにドッキングするシーン

  • マーフィーに5次元の世界からあれこれとコンタクトを試みるシーン

彼らとは

作中では「彼ら」という謎の存在が見え隠れしていますが、文脈によってちょっと違う。

本棚から本を落とした者
“STAY"というモールス信号を送った者

ジョセフ・クーパー

クーパーは宇宙から帰還後にベッドで横たわる年老いたマーフィーと「幽霊は俺だったんだ」と会話します。
親は子供の記憶の中で生きるという宇宙出発前のセリフは実生活でもそうだという実感もあって「好きなセリフ」として上でも紹介しましたが、映画の終盤でもマーフィーが「私の幽霊だったんだ」とクーパーからの信号だと気付くシーンに掛かっているんですよね。

クーパー親子にNASA所在地の座標データをバイナリ信号で教えた者

ジョセフ・クーパーとターズ

ワームホールで移動中にアメリア・ブランド博士が接近遭遇したモノ

ジョセフ・クーパー

「彼らは過去を変えるために俺たちを呼んだんじゃない」の彼ら
ワームホールを作ったと考えられる彼ら
5次元の空間に3次元の空間作った彼ら

クーパーを地球のマーフィーとの橋渡し役にした者

未来の人類?それとも異世界人?原作を読んでないから分かりませんが、映画の限りではそこまで明確ではありません。でも彼らは自由に時空を超えられて何者にも縛られない だけど特定の時間・場所を見つけて何かを伝えることは出来ないんだというセリフがあるように、クーパーら現代人類でないことは確か。

ただし、未来の人類がクーパーとターズを介してマーフィーに量子データを伝えるためにおこなったことだとしたらタイムパラドックスが生じてしまうので、「この者」は人類以外の存在と考えるのが自然ではないか???

クーパーステーション

マーフィー・クーパーの功績を讃えて命名されたクーパーステーションは土星の軌道上にある宇宙ステーションです。

打った野球ボールが頭上にある家の窓ガラスを割っています。冒頭でクーパーが首を横にして見ていた「プランAのための人工重力環境」です。これはブランド教授が研究してきた重力コントロールに関する式が完成しないと稼働できないもので、ブラックホール内でしか観測できない量子データがなければ「両手を縛られて敵と戦うようなもの」で解明は困難でした。

でもターズが収集したデータを5次元空間の中からクーパーがマーフィーに伝えたことで、これが実現できたワケです。

気になる矛盾点

マン博士の生存限界

これはタイムパラドックスとは別の話。

着陸船の設備で2年は生きられて、冬眠カプセルを使えば探査期間を10年以上延長できると作中では言っています。そして有人探査を始めたのは10年前から。

つまり宇宙に出たら12年かそこらしか生きていられなくて、その限界は近づいているのだと受け取れます。

もしそうだとしたら、マン博士は生存していないのでは?と思うんです。というのも、クーパー達は直前に生物学の権威ローラ・ミラー飛行士のいる水の惑星に寄り道して23年4ヶ月8日を費やしているからです。

ミラーのいた水の惑星は「ガルガンチュア」というブラックホールに近いために時間がゆっくり流れ、突然変異を与えてくれる隕石はブラックホールに飲み込まれてしまいます。アメリアは、「マン博士の惑星もブラックホールに近いから素粒子物理学者エドマンズの星にするべきだ」と苦し紛れに擁護しています。

実際、マン博士と争って母船(エンデュランス:辛抱、忍耐の意味)を取り返した直後にガルガンチュアに吸い込まれるほど、すごく近い位置にあります。この近さのせいで時間が1/3くらいでゆっくり流れていたのだとしたらマン博士がぎりぎり生きているのもまだ理解できます。

もしマン博士の惑星の時間が重力の影響を受けないのだとしたら、マン博士の生存限界はとっくに過ぎています。マン博士の冬眠カプセルは少し古びていて、目覚めたマン博士も感極まっています。それくらい長い年月だったということです。なにせ出発してから30年前後経っているはずですから。
逆に、時間がミラーの星並みにゆっくりなら人類を救うのに間に合わないから選択肢から外れても然るべきだし、時間が通常ならマン博士は生きてないんじゃないかというこの辺で妙な矛盾を感じています。

クーパーのマーフィーの年齢差

クーパーのマーフィーの年齢差にも不自然な点があります。私の勘違いだといいのですが・・・ここでは会話や状況から2人の年齢を割り出してみます。

ガルガンチュアを重力ターンする際にクーパーとアメリアはこんな会話をしています。

クーパー

今度の時差は51年だぞ

アメリア

120歳にしては随分声が若いじゃない

言及されている年数を元にして逆算すると、地球出発時のクーパーの年齢は43歳か44歳くらい。(120-51-23-2=44歳)

  • 44歳: 地球を出発

  • 46歳: ワームホールに到着(2年経過)

  • 69歳: ミラーの惑星に着陸、マーフィーが同い年になる(23年4ヶ月8日、合計25年経過)

  • 120歳: ガルガンチュアを重力ターン(51年経過、合計76年経過)

  • 124歳: 気を失い、病室で目覚める(4年経過、合計80年経過)

10歳だったマーフィーが90歳になっていると仮定すれば自然な描写です。(息子のトムは15歳だった)
でもここで矛盾が生じます。マーフィー視点だと、ミラーの惑星から帰還した時点でマーフィーは父クーパーと同じ年齢の44歳で、そこからラストの約90歳までは46年。一方、クーパー視点ではガルガンチュアで55年を費やしているので9年の誤差が生じます。

ラスト、病院で目覚めたクーパーは既に124歳。出発時が44歳だとしたら80年経っています。下表は120歳を元にして各シーンで触れている時間経過から2人の年齢を逆算したものです。

クーパーの年齢を単純に逆算した場合(34歳差になる)
人物出発ワームホール到着ミラーの惑星重力ターン直後ラスト
クーパー44歳46歳69歳120歳124歳
マーフィー10歳12歳35歳(???)86歳90歳

これではクーパーと同じ年齢になったというマーフィーのメッセージ動画と矛盾します。じゃあマーフィーが44歳になったと仮定すればどうなるか。

マーフィーが44歳で25歳差だと仮定した場合
人物出発ワームホール到着ミラーの惑星重力ターン直後ラスト
クーパー44歳46歳69歳120歳124歳
マーフィー19歳(!?)21歳(!?)44歳95歳99歳

これでは冒頭のマーフィーの年齢も9歳おかしくなります。やはりどこかに9年が隠れているように思います。

クーパーの120歳から逆算すると、どうしても35歳になって辻褄が合いません。この辻褄を合わせるにはワームホールを通過する時に重力の影響で9年の時差が生まれたとするのが自然でしょうか?

ワームホールで9年を費やしたと仮定した場合(25歳差になる)
人物出発ワームホール到着ワームホール通過ミラーの惑星重力ターン直後ラスト
クーパー35歳37歳46歳69歳120歳124歳
マーフィー10歳12歳21歳35歳95歳99歳

これなら、2人の年齢差、マーフィーとクーパーの年齢が同じになったタイミングなどの数字がしっくりときます。
でもこれはこれで、今度はまた別の矛盾が生じます。上の計算が正しいとすると、今度はマン博士の星では時間が通常通りに流れているということになり、これはこれでやっぱり腑に落ちない。

眠っているとはいえマン博士が32年以上生きているのも不自然だし、ガルガンチュアにめっちゃ近いのに時間の流れが通常となってしまうからです。それとも、マン博士の星は時間が1/3くらいの速度で進んでいて、彼は10年くらい寝てたということなんでしょうか。それならある程度の辻褄は合います。

ちなみに120歳から124歳までの4年間を高重力のガルガンチュアで過ごしたのだとしたら、アメリアと別れてから病室に至るまではほんの一瞬だったということになるので時間の経過は無視できると思います。救出された時には宇宙服の酸素残量が2分だったので。

物理学者がSF作家が集う制作陣の中では辻褄は合っているのかもしれませんが、一般視聴者の感覚としてはちょっと腑に落ちないというか、説明不足だなと感じました。

ラストがシュタゲっぽい

で、ラストで、全部状況が分かってるクーパーがアメリアを助けにいくシーンって「時空を超えて主人公がヒロインを迎えにいく」わけで、これってシュタインズゲートでオカリンがまゆしぃを助けに行くラストと少し似てるなーと連想されました。

宇宙と5次元空間の描写への挑戦はとても良かった

うろ覚えですが、サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニーが共演した2013年の映画『Gravity』(ゼロ・グラビティ)に比べると人体の無重力感はちょっと劣っている印象を受けました。特にマン博士がドッキングを何度も試みるシーンです。(尺を考えるとあのシーンではあれが限界なのかもしれませんが)
ただ、出発する時の切り離し、クーパーが手動でドッキングするシーンなどは凄く良かった。

もう1つは5次元の描写です。思わず「えぇ!?嘘やろ!?」と一瞬笑ってしまったものの、よくよく考えるとこれを表現しようとすることはとてもチャレンジ精神に溢れています。もうこの1点だけでもこの映画を評価したいくらいです。