『アメリカン・ホラー・ストーリー1(呪いの館)』の感想:怖いけど最高に面白い

2018年12月20日

途中までなるべくネタバレ無し。

シーズン1であるアメリカン・ホラー・ストーリー:呪いの館(原題:American Horror Story: Murder House)を最近プライム・ビデオで観ました。これがまぁ面白い。

アメリカン・ホラー・ストーリーとは?

このアメリカン・ホラー・ストーリーというドラマはシリーズ化されています。1シリーズにつき10話~13話で構成されていて、2018年時点では8(アメリカン・ホラー・ストーリー:アポカリプス)まで続いているアメリカの人気ホラードラマです。シーズン5のアメリカン・ホラー・ストーリー:ホテルにはレディー・ガガも登場します。

シリーズ内では話は連続していますが、別のシリーズでは場所も年代も登場人物も全てが一新されます。ただし、多くの出演者は役柄を変えたうえで共通して出演しています。

ネタバレ無しの感想

第1話、第2話はめっちゃ怖い

私ね、本当にホラーがダメなんですよ。

なんで娯楽で怖い思いをしなアカンのやっていう感覚。いい年こいて、深夜に見たらトイレに行くのが怖くなるんです。

だから遊園地とかでもただ疾走感を得られる爽快系は良いんですけど身体がフワ~~ってなる絶叫系のジェットコースターとかもダメなんです。事故のリスクとかも想像すると尚無理です。

でね、最近このホラードラマを不運にも友達に勧められちゃったワケです。友人曰く「シリーズ3までは観たけど1が一番面白いTonight you belong to me(今夜あなたは私のもの)ってBGMも最高だよ!」って。

これは1956年のPatience and Prudenceによるカバ-です。曲自体はすごく甘いメロディーと歌詞なのに、「なんでこんなホラーと組み合わせたの・・・」と、第1話を観た時には感じました。でも話数が進むに連れて、この曲の解釈もまた変化していきます。

この曲は1926年に作詞家のBilly Roseと作曲家のLee Davidによって作られた曲で、初めてのレコーディングはIrving Kaufmanによるもの。でも1952年にFrankie Laineがリバイブさせ、更にPatience and Prudenceがカバーしたものは原形を留めておらず、オリジナルとはほぼ別物です。

Youtubeを見ると、The Lennon Sistersのカバーも素晴らしいんですが、個人的にはこのカバーが最高に好き。

この曲はドラマ1話目の開始1分くらいで早速流れます。

好意で勧めてくれた作品を無下にするってできない性分なんです。幸いにも(不幸にも?)1話だけはプライム会員なら無料視聴できたので、「とりあえず1話だけでも観なきゃ」と思って観てみたらやっぱり怖すぎました。でも結局は面白すぎて全話購入して見ちゃいました。

なぜ全部観ちゃったのか

作品のベースとモチーフには、キリスト教の無原罪懐胎や悪魔があります。

1話目の始まりは1978年。2人の少年がイタズラ目的で呪われた館を訪れると、外に居たダウン症の少女が「やめた方がいい」と忠告するのですが、彼らがそれを無視して家に侵入するところから始まります。

なぜ自分がこんな怖いのを最後まで観れちゃったかを説明しようと考えてみたんですけど、端的に言うと「ドラマ性がとても強い」、「ただ怖いだけのホラーではないから」だと思うんですよね。

話数が進むに連れて、この家の歴史や成り立ち、過去の出来事や人間群像が段々洗い出されてきて、「そういうことかー!!」と、ちょっと謎解きも含んでいるような感覚もあって、「次!はい次!」ってどんどん観たくなっちゃう構造をしています。週末の2日で12話全てを見ちゃいました。

出演者の演技力が素晴らしい

特にコンスタンス・ラングドン役を演じている女優ジェシカ・ラングの演技力は素晴らしいですね。これを見るだけでも価値があるんじゃないかというくらい。

モイラちゃんがめっちゃ可愛い

作中にはモイラ・オハラというメイドが登場します。で、このモイラの若い時を演じているのがアレクサンドラ・ブレッケンリッジ。めちゃ可愛い。

登場シーンになるとワクワクしちゃいますね。

歳を取ったモイラを演じるフランセス・コンロイの演技もいいですよ。彼女はマーティン・スコセッシ監督による2004年のアメリカ映画The Aviatorでヘプバーンの母を演じています。

買っても後悔しないだけの面白さがある

過去の出来事と現在との描写について矛盾を感じる箇所(後述)はいくつかあるのですが、そういうことを咎める気を起こさせずに最後まで「面白い!」と思わせてくれるクオリティーがあります。

なぜ微妙な矛盾を感じるのか?この作品はシリーズを丸ごと1人の監督が制作しているわけではなくてエピソード別に監督が違うから、というのもあるかもしれませんね。

アマゾンプライムでは多くのドラマや映画が無料できるので買う機会がなく、プライム会員になって数年経ちますけど購入したのはこれが初めてでした

ホラーに対して私は基本なんで金払ってまで怖い思いしなアカンねんというスタンスなんですけど、これを全話レンタルじゃなくて購入しても「買うんじゃなかった」という後悔は一切ありませんでした。まじでオススメです。

ネタバレを含んだ感想

ここからネタバレ有りです。

どの年代に誰が住んでいたのかまとめてみました。

年表

アメリカン・ホラー・ストーリー1(呪いの館)の年代別の住人の年表
年代住人備考登場エピソード
1922年モンゴメリー夫婦(ノーラ、チャールズ)チャールズがノーラの希望通りの家を建てる第3話
1926年モンゴメリー夫婦(ノーラ、チャールズ)チャールズが息子(サデウス)を人造人間の怪物に作り変える第7話
1947年クラン歯科医師(Dr. David Curran)ブラック・ダリア事件が起こる第9話
1968年学生寄宿舎マリアとグラディスがフランクリンの襲撃に合う第2話
1978年廃墟、住人無し双子(ブライアン、トロイ)がサデウスに襲われる第1話
1983年ラングドン一家コンスタンスが夫とモイラを撃つ第3話
1984年ラングドン一家夫を亡くし、不渡り通知が届くようになる
サデウスがテイトの前に現れる
第11話
~1994年ラリー一家ラリーが妻ロレイン(ローレン)と2人の娘(マーガレット、アンジー)を亡くす
直後にラングドン一家が同居する
10話
1994年ラングドン一家テイトが学校襲撃事件を起こす第1話、第6話、第10話
2010年10月28日チャド、パトリック(ゲイカップル)チャドがラバースーツを購入
2人がテイトに襲われる
第4話、第8話

こうやってまとめると、1994年まではほとんど幽霊による被害は少なくて、むしろ生きてる人間が原因だということが分かります。

気になるいくつかの矛盾点

すごく楽しい作品でしたけど、いくつかの矛盾点が気になりました。こういうストーリーに辻褄を求めるのって変なんでしょうか。

1話の冒頭で地下にヤバそうな瓶が並びすぎ

ブライアンとトロイの双子が1978年に家に侵入した時、地下室には臭そうな瓶がたくさん並んでいます。

でも直前に使用されていた時の用途は第2話で紹介される通り寄宿舎として使われていたはずです。隠れたエピソードが無い限り。

モンゴメリー博士やデイビッド・クラン歯科医師の直後ならまだちょっと分からないでもないんですけど、「寄宿舎になったのにあの瓶放置しとく?」って思っちゃいました。

なぜラリーはベンに嘘をついた?

なぜ、全身に大火傷を負ったラリー・ハーヴィー(デニス・オヘア)は、1話目や2話目でベン(ディラン・マクダーモット)と会話した時にあんな嘘をついたのか?ただ単に視聴者を欺くため?
途中からベンに1000ドルを要求するようになりますが、その手段にしては無理があります。

第7話でベンがラリーの家に押しかけたシーンでは、ラリーは「あの家を取り戻すため」だと言っています。でもやっぱり腑に落ちません。だって、「ヤバイ家だから出ろ」とベンを説得したいのなら、事実を全て話したほうが早いではありませんか?

なぜモイラの人格はこんなに違うのか

過去と現在のモイラちゃんの正確はかなり違いますよね。

生前当時は、家主から言い寄られても拒絶するもっと清楚だったような印象ですが、現在ではベンを誘惑したり金持ちのアルメニア人 エスカンダリアンを皆と共謀して地下に連れ込むなど、かなりゲスくなっています。

しかもなぜ彼女だけが年老いた姿と若い時の姿があるのか?そこもちょっと不明です。

モイラちゃん、自分で穴掘れるのに

2話目で「穴を掘るから室内を漂白して」って言ってます。

えー・・・そんなこと出来るんだったら、自分が埋まってる庭も掘り返せるんじゃないの・・・と思っちゃいました。

っていうか、それだったらしょっちゅう家に侵入してくるコンスタンスに復讐することだってできるでしょうに。

2話目でテイトはもっと直接的にヴァイオレットを救えたはず

1968年の事件を再現するために襲撃されたヴァイオレットはテイト・ラングドン(エヴァン・ピーターズ)に救われます。でもわざわざ地下に誘い出す必要あったんですかね?

だって2階でもオノを振るってたじゃないですか。

この作品を厳しい目で見れば本当にいくらでも辻褄が合わない点とか納得できない点があるといえばあるんですけど、最終的には満足できるんですよね。

笑える場面

ホラードラマなのに、思わず笑っちゃうシーンが何度もあります。

第2話:コンスタンスが作ったカップケーキの隠し味

吐根シロップ(子供がタバコなどを誤飲した時に使われる催吐薬)をケーキに加えて、更にアディにツバを吐かせてエグいケーキを作る。

第6話:都市伝説(Piggy Piggy)の結末

鏡に前に立ってhere piggy pig pigって3回言うと豚男(Piggy man)が現れるっていう都市伝説の話です。

ここまでずっとシリアス路線だったのに、このおっちゃんの結末はさすがにネタすぎるでしょ(笑)

でもこのワン・クッションが私にとっては凄く心地よかったというか。いい調味料だと感じました。

第7話:ヴァイオレットの部屋から出てくるモイラ

エスカンダリアンとモイラがヴァイオレットの部屋から出てくる時、彼女は自分の口を拭いているんですよね。そのそそくさとした仕草が面白い。

第9話:有名になったエリザベス

彼女は有名になりたくて女優を志していました。結果からいえば不本意だと思うんですが、彼女は2ヶ月間も全紙の一面を飾った事実を知ると「有名になったのね」と、半分自分に言い聞かせるように言います。

第10話:トラヴィスの依頼

トラヴィスはラリーに「スクラップブックを作るんだ」と言って、自分のことが書かれた新聞の切り抜きを持ってくるように依頼します。

ブラック・ダリア事件は実話

調べてて気づいたんですけど、ブラック・ダリア事件は1947年1月15日に実際に起こった未解決事件だったんですね。

しかも事件の名前、状況、被害者の名前はそのまま使用されています。彼女が黒い服を好んで着ていたということも再現されています。

コンスタンスは本当にラリーを愛していない

10話(12分頃~)でもコンスタンス本人がラリーに対してそう言っています。私は最初、「過去のあやまちからそう思いたくない」のだと思っていました。でもコンスタンスはそんなヌルい女じゃなかった。

10話の冒頭(1994年)で、ラリーを含めた家族4人で食事の前に祈る時に、テイトが「母さんは奴を愛してなんかいないのに」と言った通り、本当に愛していなかったんですね。

要は、1983年にコンスタンスが(自分の手で)夫を亡くし、1984年には不渡り通知が届くようになり、家庭の財政は困窮した。

そしてあの館は金持ちなラリーのものとなり、コンスタンスは現在住んでいる隣の家に引っ越します。その後、生活のためにコンスタンスとラリーがデキて、ラリーも火事で家族を失います。その結果、ラリーは独り身になり、コンスタンス家族は1994年に再び手放した屋敷に戻ることになったワケです。

モンゴメリー博士が作った人造人間「サデウス」

モンゴメリー博士は、誘拐されて帰ってきた(返ってきた)我が子「サデウス(Thaddeus Montgomery)」を人造人間に作り変えることに成功します。

彼らの息子の名前がサデウスだということは7話の「永遠の闇ツアー」(Eternal Darkness Tour)で紹介されています。

ベン・ウルフ演じるサデウスは作中で何度か登場します。

第1話

1978年、廃墟となった家で双子(ブライアン、トロイ)を襲ったのはサデウス。明確な出演はないが、顔の傷からそう考えられる。

第2話

学校の女子生徒を家の地下室に誘い込んだ時、彼女の顔に傷を付けたのがサデウス。

第11話

1984年、車のおもちゃを持って地下で遊んでいた幼少期のテイトに襲いかかろうとした。ノーラは「サデウス、消えなさい」と言ってテイトを助けた。

ベン・ウルフは2014年から放映されたアメリカン・ホラー・ストーリー:怪奇劇場 にも出演していますが、残念ながら2015年に34歳の若さで事故で亡くなりました。(Ben Woolf, 1980年9月15日 – 2015年2月23日)

ノーラはサデウスを愛していない

現在のノーラは子供を欲しがっています。サデウスはノーラの息子ですが、11話の1984年のシーンでは自分の子供として認識していない、あるいは子供と認めていない・愛情を抱いていません。一方、幼いテイトを我が子のように可愛がって、「さあ 涙を拭きましょう 短い人生 泣く暇はないわ」と諭しています。

ところが、直後の現代のシーンでは大きくなったテイトを見ても「誰なの?」と聞き、あの時の子供だという認識を持ち合わせていません。ただ暗い場所だったからだとは思えません。

でも、大きくなったテイトがノーラに教えられた通り「人生 泣く暇はない」と言っても、「それは違う 永遠なの 毎日 昼も夜も 我が子を思って泣くのよ」と返し、更にはヴィヴィアンの子供を「私が奪う」と宣言します。いつまでも幼い子どもを求める幽霊になっちゃったんでしょうか。

新約聖書にも登場するThaddeus

で、調べてて面白いことに気が付きました。

このThaddeus(Thaddaeus)って、タデウスと表記されることもあって、これはユダ・タダイ、ユダ・タデオ、聖ユダと同じ名前なんですよ。

聖ユダは新約聖書に登場する12人の使徒(イエス・キリストの高弟)の1人です。いわゆる「裏切りのユダ」とは別人です。

で、彼が守護するのが次の人々です。

  • 絶望的状況にある人
  • 敗北者
  • 医療従事者

まさにこのドラマの登場人物たちのことではありませんか!まぁ作中のサデウスがこれらの人々を守護している描写は一切ありませんけどね。