今までに観たホロコースト、ナチス関連の映画、映像作品

2021年1月14日

ネタバレにならない程度に紹介しながら比較してみます。結論を先にいうと、1つ(帰ってきたヒトラー)を除いて全て見る価値がある映画です。

元々これはシンドラーのリストを観た感想を述べる上で、他のホロコースト、ナチス関連の作品と比較するためにざっくりと各映画の感想を述べたものだったのですが、独立してこちらのページでまとめることにしました。

シンドラーのリスト(1993年)

ユダヤ系移民であるスティーブン・スピルバーグ監督の作品。

ナチ党員だったオスカー・シンドラーという実業家がSS将校に取り入って財を成していく実話を元にしたドラマです。ヒトラー含めナチスの将軍クラスの高官は登場しませんが、ゲットー解体のシーンもありホロコーストの最前線を描いていて、悪名高きアーモン・ゲートも登場します。

私が今まで観た映画のTOP10に入る名作。おこがましいかもしれませんが、これを観ることが現代人の務めだとさえ思わせてくれます。

戦場のピアニスト(2002年)

これも実話。シンドラーのリストと同様に、名作として挙げる人も多いですね。
西暦2000年に死没した実在のポーランド系ユダヤ人 ウワディスワフ・シュピルマンを主人公とした映画。

カラーのせいか、シンドラーのリストよりも描写は残酷で凄惨に見えます。
でも観終えた後に残る衝撃はシンドラーのリストのほうが圧倒的に強い。戦場のピアニストの終わり方のほうが清々しいし、構図や音楽が美しすぎるからなのかもしれません。

作品内容が素晴らしいのは勿論ですが、構図やカメラワークについてはシンドラーのリストに比べてはるかに美しい。
これだけでもロマン・ポランスキー監督すごい!と思いました。

しかもポランスキー監督は実際 幼少期にクラクフ・ゲットーに押し込められ、母をアウシュビッツで亡くしています。
正に生き証人で、シンドラーのリストの監督候補にも上がっていました。これだけでももう見るしかないでしょ。

また、全編にわたって聞けるどのクラシック曲もいい演奏。調べてみると、ピアノもやっぱり良いものを使っているようです。
選曲が良くても残念な演奏が使われてしまう映画はたくさんあるのでこの点は特に良かったと思います。音楽がテーマの1つなのにダメな演奏では目も当てられないので。

登場するクラシック音楽はただのBGMではなくストーリーや心情を表しているので、曲や作曲者を知っているクラシック好きの人ならより一層楽しめると思います。(例えばドロタが後半で弾いてる曲の意味合いとかね)

より詳細な感想はこちらでまとめています。

ライフ・イズ・ビューティフル(1997年)

主演、監督、脚本をロベルト・ベニーニが1人でこなした名作中の名作。
彼はこの作品でスティーブン・スピルバーグ映画プライベート・ライアンのトム・ハンクスを抑えて主演男優賞を受賞しています。

主人公は1939年ユダヤ系イタリア人の一家。父親は幼い我が子を怖がらせないようにと、あの手この手を使って戦争を「ゲーム」に見せかけようと試みます。

ここに挙げる映画でも特に推したい名作。ですが、それは私が初めてこの映画を見た当時の印象によるもの。もう何十年も観ていないので今観たらまた違う感想になるかもしれませんね。また観たら追記します。

でもこのプレビューを見るだけでもまた観たくなってきます。

ワルキューレ(2008年)

ヒトラー暗殺計画を図り、現在のドイツでは英雄視されている将校クラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐を描いた実話。

トム・クルーズが主演というだけでもこれまた見応えがあります。作戦遂行までを描いているので、シンドラーのリストとはまた別の緊張感がハンパじゃない。ヒトラーの独裁体制の裏でこうやって抗った人たちに光が当たることの意味合いはシンドラー同様とても大きい。

イングロリアス・バスターズ(2009年)

タイトルを和訳すると「栄光なき野郎ども」といったところでしょうか。

クエンティン・タランティーノのフィクション作品。ブラッド・ピット、クリストフ・ヴァルツ、メラニー・ロランの名演が観られる、これだけでもう観る価値があります。

笑えるシーンもあって良い。ただしラストの締め方は一気にチープに感じました。長くなってでも、もっと良い締め方が出来なかったのかと残念に思う。それでも良い映画と評価できるだけの内容。

でもこれはタランティーノ監督の意図するところらしい。というのもナチスは映画をプロパガンダに利用しましたが、監督はそれが許せないので、逆に「映画でナチスをやっつける」というコンセプトで作られているんだそうです。そう聞くと面白い。

ちなみになぜこれを見ようと思ったかというと・・・

『オーケストラ!』(原題: Le Concert)というチャイコン(チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲)を題材にした(奇しくもイングロリアス・バスターズと同じ2009年の)フランス映画でメラニー・ロランの美貌を知ったという不純な動機です。

ハイフェッツやパールマン(後述)のチャイコンを知ってから作中の演奏を聞き直すとなかなかの酷さを感じてしまいますが、 私はこの映画でチャイコンを知ったし、曲も好きになったので個人的にはとても思い入れがあり、きっかけを与えてくれたことにすごく感謝しています。

ヒトラー 最期の12日間(2004年)

これも実話。
ヒトラーの個人秘書官だったトラウドゥル・ユンゲという実在の女性の視点で、最期の地下生活まで描いた作品。主演のアレクサンドラ・マリア・ララがこれまた美しい。

年老いたトラウドゥル・ユンゲ本人(2002年に死去)も映画の最後に登場します。ヒムラー、ヒトラー、カイテル元帥など主要な人物の人相の再現度が最も高いと感じる作品です。結構違うなと思う人物もいますが、実物よりやばそうなゲッベルスもこれはこれでアリかなと。

ヒトラーが実際どのような人物でどのような最期を遂げたのか、最も間近で見た人の回想が元になっているので再現度はきっと高いのでしょう。その意味で貴重な映画です。シンドラーのリストにはヒトラーなどのナチス幹部が一切出てこないのでこっちはこっちで見応えがあります。

ちなみにヒトラーが地下室で「ちくしょーめー」と激昂する巷で有名なMADの素材元でもあります。

ヒトラー暗殺、13分の誤算(2015年)

1人で全てをやってのけたゲオルク・エルザーを主人公とした映画。周囲が段々とナチズムに狂っていくなかで自分が正しいと思うことを貫いた実話で、彼の生き様や個性の凄さに見入ってしまいました。シーンごとのカラーグレーディングに対して非常に細やかに気を遣っている感じがとても良い。

辛いシーンを思わず飛ばしてしまうことが多々あったけど、観るべき映画の1つとして評価できる作品でした。シンドラーのリストが白黒なのはやっぱり見やすい。

ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦(2017年)

ラインハルト・ハイドリヒ暗殺を目的とする「エンスラポイド作戦」に関する実話映画。

主にヨゼフ・ガプチークとヤン・クビシュという2人のチェコスロバキア軍人を描いていて、作戦自体は中盤で終わります。恐らく、史実を伝う上でどうしても後半の銃撃戦の描写を長くせざるを得ないのかもしれませんが、視聴者としては辛いし退屈。
支援者の人物像については同じテーマの映画『ナチス第三の男』(2019年)と違う部分が多い。(どっちが史実に近いかは不明)

ほとんど映りませんが、ハイドリヒの顔はかなり似てます。

主演はキリアン・マーフィーとジェイミー・ドーナン。キリアン・マーフィーはインセプションでの御曹司役。

ナチス第三の男(2019年)

上の作品と同じく「エンスラポイド作戦」がテーマ。上の作品では2人の軍人を多く描いていてハイドリヒが出るのは一瞬。

一方こちらは、ナチ入党前からのハイドリヒをかなり主体的に描いているのが大きく違う点です。
ところが、役者の顔つきがかなり違う上に、ラインハルト作戦、長いナイフの夜、水晶の夜(というかその前のポーランド系ユダヤ人追放)、グライヴィッツ事件などこやつの悪行の数々がほぼ語られないというのは如何なものか。

そういう点についてはアーモン・ゲートの悪行をしっかりと描いたシンドラーのリストは「正しい構成」と言えます。

偽りの忠誠 ナチスが愛した女(2016年)

オランダに亡命した元ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の動向を監視するために派遣されたドイツ将校と、その屋敷で働くユダヤ人メイドの女スパイとの恋物語。

珍しく、ドイツ最後の皇帝ヴィルヘルム2世が登場する映画。美しいヒロインを見てハッしました。ダウントン・アビーのレディー・ローズ・マクレア役(ちょいちょいダウントンに遊びにくるお嬢様)を演じていたリリー・ジェームズじゃありませんか!
しかもあのレディ・ローズがあんなことやこんなことを・・・あわわわわ・・・もうこれだけで楽しい。

小説を元にしたフィクションですが、時代背景と恋愛をうまくまとめ上げていて、とても評価できる作品です。ただし、イギリス映画のためか、チャーチルやヴィルヘルム2世が極端に贔屓目に描かれている点は如何かと。

時代背景だけを利用するならまだしも、実在の人物の描写にやや無頓着な感じがした点についてはマイナスとしておきます。

シャッター・アイランド(2010年)

直接ホロコーストを描いた作品ではありませんが、ダッハウ強制収容所で起きたダッハウの虐殺が関連した作品としてここに挙げさせてください。

マーティン・スコセッシ監督にレオナルド・ディカプリオ主演の映画。シンドラーのリストでシュターン役として出ていたベン・キングズレーもジョン・コーリー医師として出ています。

時間を忘れさせて観客を引き込むチカラや、レオナルド・ディカプリオの演技は素晴らしいものがありますが、考察した中で気づいた矛盾点や不満点がちょっと多い。エンターテインメントとしては評価できますが芸術評価としてはそこまで高くはありません。

感想や考察の詳細は別ページでまとめています。

バンド・オブ・ブラザース(2001年)

スティーヴン・スピルバーグとトム・ハンクスが製作総指揮したBBC/HBO制作のミニシリーズドラマ。1話60分前後で10話まであります。この二人といえばスティーヴン・スピルバーグ映画プライベート・ライアンを思い浮かべるでしょう。

主人公はアメリカ陸軍第101空挺師団E中隊(パラシュート歩兵連隊のエリート)で、ノルマンディー上陸作戦、マーケット・ガーデン作戦、バルジの戦いなどの重要な降下作戦に参加した部隊です。

101空挺師団といえば、プライベート・ライアンでライアン一等兵が所属していた部隊でもあります。

有能な上司(E中隊の隊長リチャード・ウィンターズ)とその部下を中心にした群像劇で、生々しい銃撃戦のシーンがずっと流れるので、好き嫌いがはっきりと分かれるかもしれません。
私は一応見れましたが、もういちど観る気力は正直ありません。

一応ノンフィクションを元にしているのですが、違う部隊の出来事とは言えバルジの戦いの後に起こったと言われるマルメディ虐殺事件(被害者はアメリカ人だが、後に連合国側が報復命令を出した)や、ダッハウ強制収容所で起こったダッハウの虐殺(アメリカ軍による私刑)の顛末の描写が無い点について連合国軍にちょっと都合のいい描写が多いと感じます。

アウシュビッツ ナチスとホロコースト

イギリス放送協会 BBCが制作したドキュメンタリー。1話48分前後で合計6話(合計4時間45分程度)です。各話の冒頭とエンディングは飛ばせるので実際にはもう少し短い時間で観ることができるはずです。

ちょっと長いですが、客観的な資料としてすごく分かりやすくまとめられていました。

  • ガス室完成までの試行錯誤の経緯

  • 実際にガス室から遺体を運び出すなどの作業をしていたユダヤ人 作業班の証言

  • 収容所逃亡者の生々しい証言

  • 収容者が空爆を望んでいたこと

  • アメリカはそれを却下していたこと

  • 私物略奪の横行

バンド・オブ・ブラザースよりよっぽど見応えがありました。

ナチスの愛したフェルメール(2016年)

ナチスの国家元帥ヘルマン・ゲーリングにフェルメールの絵画を売り渡したとして起訴された贋作画家ハン・ファン・メーヘレンの半生を描いたドラマ。

数奇な人生がなかなか良い感じに描写出来ていて、いかにもヨーロッパの映画という感じ。やっぱりハリウッド映画とはかなり違います。

原題はA Real Vermeer(本物のフェルメール)で戦争シーンなども一切無いのでここに挙げるのもちょっと躊躇いましたが、一応ゲーリングが登場するので挙げておきます。

検事フリッツ・バウアー ナチスを追い詰めた男(2016年)

アドルフ・アイヒマンを追い詰めたドイツ ヘッセン州の検事総長フリッツ・バウアーを主人公としたドラマ。彼はユダヤ人です。

私は、ドイツは終戦後すぐに生まれ変わったと思っていたのですが、実は終戦後もナチスの残党が政権の中枢に居座る状態だったんですね。検察の人事すら握られ、バウアーの部下にもナチスの残党がいて情報は簡単に漏洩する。

彼曰く、ナチスの所業をドイツ国内で厳正に裁くことこそ「ドイツの司法が果たすべき責務」。バウアーは頑固者ですが自分に確固たる理念があり、逆境の中でも奮闘する強い姿に感銘を受けました。

下に紹介するアイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男よりもバウアーが追及しようとしていた本丸の規模が分かりやすい。この映画では、ニュルンベルク法制定に関わったハンス・グロプケをも糾弾することで彼を重用していたアデナウアー政権を揺るがし、政権の息のかかった司法を抜本的に改善しようとしていることが分かります。

アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男(2015年)

これもフリッツ・バウアーが主人公。
上の検事フリッツ・バウアー ナチスを追い詰めた男よりもアイヒマン捕縛の部分にフォーカスしています。どっちが本人に近いかは分かりませんが、個人的にはこっちのバウアーのほうが好きです。
バウアーの人間味や頑固さが色濃く描かれているように感じたから。


どっちか観るならこっちのほうが楽しいかも。電話が掛かってきて一瞬で切れるシーンなんかいかにも緊張感があって好きだし、専属の運転手との関係もなんか好き。

ブラックブック(2006年)

ナチスに支配されたオランダでユダヤ人女性がスパイ活動をする戦争サスペンス映画。

実態としてはドタバタ活劇という感じで、戦争映画という感じがあまりしません。サスペンスの真犯人を視聴者が割り出すことは非常に困難だという点においてはよく捻っているとは思いますが、ただ捏ねくり回しているから分からないだけで、大どんでん返しの内容にも説得性がありません。

一応最後まで観ることはできましたが、全体として内容もオチもチープで辛口評価にならざるを得ません。

冒頭では「事実に着想を得た物語」という字幕がでますが、いっそ「事実」だけに拘った実話のほうが面白かったんじゃないかと感じます。それがどんな事実だったかが視聴者には選別できない事は、フィクションと混ぜてしまうことの弊害だと思います。
フィクションにすることで良い映画に昇華できるならそれもまだ許せるのですが・・・。

帰ってきたヒトラー(2015年)

評価する/しない以前のゴミ作品で作品と呼ぶにも値しない。

「これはこれで啓発になっているし、これを許せるドイツはまだ健全」等と評する人もいますが、それは間違いです。誰かを啓発するという名目で誰かが傷付いたり犠牲になったりしてはならんのです。
特に、ヒトラーがメルケル首相を皮肉った後に今のドイツの現状を憂慮している場面は反吐すら出ますね。このヒトラーは現代でもコメディアンとしてうまく立ち回る姿を見せていて、「犠牲者の立場から見て許せる作品か」と問うてみた時、とても許せるとは思えませんでした。

なぜ私がここまで毛嫌いするかというと、このような茶化した描写では作品を見る人によって捉え方が正反対に変わってしまう恐れがあるからです。
いわば犬笛。ある人には「ヒトラーはやっぱりけしからん」と映ったとしても、ネオナチのような民族主義者には「ヒトラーやっぱりすげぇ」と映ってしまうかもしれないし、はたまたナイーブな人(世間知らずな人)にとっては「ヒトラーって実は良い面もあったのでは」ととっつきやすい存在にさせてしまう危うさがある時点でダメなんです。
また、この作品では「不寛容な主張に寛容であれ」とする部分が見受けられますが、カール・ポパーのいう寛容のパラドックス(不寛容なものには不寛容であるべき)にも当てはまり、ナチスも寛容の隙間をついてあそこまで大きくなってしまったのです。
なので口汚くなってでも「これはゴミ」と否定せねばならんと私は考えているのです。

シンドラーのリストは1回見るだけでも覚悟と体力が必要ですが、こんなゴミを1時間も見るくらいならシンドラーのリストを3回見たほうがまだよっぽどマシです。