『美味しんぼ』第107話「命と器」の感想
1991年11月19日放送、アニメ版の『美味しんぼ』第107話「命と器」をアマゾンプライムビデオで観ました。(美味しんぼTVシリーズ第121話)
あらすじ
仁木一家の茶席
仁木まり子は、仁木頭取・仁木会長との3人の茶席で仁木家に新しい血を入れると言い、自由な精神を持ち、物事の根っこを掴んでいる山岡を婿候補として挙げます。
- 仁木会長
仁木まり子の祖父。仁木頭取(パパ仁木)の実父。
このサイトではジジ仁木とも呼ぶことにする。
山岡の人物像が気になった仁木会長は、東西新聞社の大原社主を訪ねて山岡について聞き出しますが、大原社主の語る山岡像は最悪。気分を害した仁木会長はすぐに席を立ち、次の約束へと急ぎます。
仲居の失態
仁木会長が向かったのは料亭・桃金。
唐山陶人に頼んでおいた作品を受け取る会食でしたが、そこには陶人が孫同然と慕う山岡の姿もありました。
陶人の作品は実に素晴らしく、本人も瀬戸黒茶碗 銘 小原木に迫る出来だと自惚れるほど。
ところが、仲居がうっかり茶碗の上に皿を落としてしまい、茶碗の口縁は大きく欠け、激怒した仁木会長は女将を呼びつけて命で償えと迫ります。
海原雄山の古備前の名品を割ってしまい、庇った母が暴力を振るわれた過去が蘇った山岡は、黙って立ち上がると板場から土瓶の湯と蕎麦粉を持ってきて、欠けた茶碗を使って蕎麦がきを作り、儚いからこそ美しく、価値があると仁木会長を諌め、陶人には金継ぎ(漆で接着し、金粉などで装飾したもの)を提案します。
反省した仁木会長は仲居らに謝り、この茶碗を蕎麦がきと命名します。
仁木会長の御眼鏡
仁木会長は山岡を大変気に入り、明珍大飯店で再び会食をした大原社主に対して、婿候補の山岡にはそれ相応の待遇をするようにと釘を刺します。
登場した料理、食材
蕎麦がき
そば粉に湯を加えて練ったもの。
贅を尽くした料理の後に食べると、素朴さが一層心地よい。
瀬戸黒茶碗 銘 小原木
名物。
千利休も所持したという名茶碗・瀬戸黒茶碗 銘 小原木 (せとぐろちゃわん めい おはらぎ) は桃山時代に美濃国(現在の岐阜県)で焼かれ、瀬戸黒の最高傑作として知られている。
小原木の特徴は、胴は黒い釉薬、腰は露胎で淡褐色、口縁(こうえん)が上下にうねり、小さな高台は一見すると無いように見える。
小原木は、アニメへうげものの第17話「チェンジング・マン」のへうげもの名品名席にも登場。
貴州 茅台酒
仕事をサボって資料室で寝ていた山岡に勧められて仁木まり子が飲んだ酒。アルコール度数60%。
- 茅台酒(マオタイしゅ、貴州茅台酒、Maotai、Moutai)
中華人民共和国貴州省特産の高粱(カオリャン、蜀黍、モロコシ)を主な原料とする蒸留酒。白酒の一つ。強い芳香があり、飲み干した杯にもなお香りが残る。名前は産地の茅台(貴州省北西部仁懐市茅台鎮)に由来する。
洞庭春色
ここは余談。
士郎は酒は憂さを払う玉箒と言っていますが、憂いと書くことが多いかと思います。
- 酒は憂いを払う玉箒
この言葉の由来は、蘇軾(そしょく、1036年―1101年)の詩「洞庭春色」の一節
応呼釣詩鉤、亦号掃愁帚
による。- 蘇軾(そしょく、1036年―1101年)
中国北宋の政治家、文豪、書家、画家。号は東坡居士(とうばこじ)。
- 掃愁帚(そうしゅうそう)
酒の異称。
行 | 原文 | 訳 |
---|---|---|
1 | 二年洞庭秋 | 二年のあいだ味わった洞庭山の秋の実り、 |
2 | 香霧長噴手 | (皮をむけば)香りたつ霧がいつも手にふりかかるようだった。 |
3 | 今年洞庭春 | 今年いただいたのは「洞庭の春」 、 |
4 | 玉色疑非酒 | その妙なる色合いは酒と思えぬほどだ。 |
5 | 賢王文字飮 | 安定郡の賢王は文学を楽しみつつ酒をたしなまれて、 |
6 | 醉筆蛟蛇走 | 酔後の筆跡はまるで蛟や蛇が走りまわるかのよう。 |
7 | 既醉念君醒 | そして酔いが回ってから、いつも醒めている君のことを心にかけて、はるか君へと酒をお届けになった。 |
8 | 遠餉爲我壽 | それを君は私に恵んでくれたというわけだ。 |
9 | 瓶開香浮座 | 瓶を開けば香りがあたり一面にただよい、 |
10 | 盞凸光照牖 | 杯になみなみと酌めば光が部屋中にかがやく。 |
11 | 方傾安仁醴 | 潘安仁が詠じたように美酒を傾けるのはいいけれど、 |
12 | 莫遣公遠嗅 | 羅公遠にはくれぐれもその香りを嗅がさないようにしなければならないね。 |
13 | 要當立名字 | 洒落た呼び方も工夫してあげなければいけないだろう、 |
14 | 未用問升斗 | いまは量の多少は問うのはやめにして。 |
15 | 應呼釣詩鈎 | 詩を釣り上げる釣り針と呼ぶもよし。 |
16 | 亦號掃愁帚 | 愁いをはらい除くほうきと称するもよし。 |
17 | 君知葡萄惡 | (この酒に比べれば)葡萄酒の色のみにくさといったら、 |
18 | 正是母嫫母 | まるで色黒で不器量な嫫母さながらじゃないか。 |
19 | 須君灎海杯 | どうか海のように大きな杯になみなみと酌んで、 |
20 | 澆我談天口 | 天を談ずる私のこの大きな口にそそいではくれまいか。 |
- 二年
蘇軾が知杭州(杭州の知事)として杭州(上海の近く)にいた1089年7月から1091年2月(元祐四年七月から同六年二月)までの期間。
- 洞庭秋
洞庭山で秋に収穫される蜜柑のこと。春から秋にかけて成熟が早く、長期保存しても香りが持続する。
- 洞庭山
洞庭湖(太湖)にあり、良質な蜜柑が収穫される東西ふたつの山。
- 洞庭春
洞庭秋を発酵、熟成させた「洞庭の春」という酒。詩のタイトル「洞庭春色」と同じ意味。洞庭湖の春景色という意味から、中国では立春(旧正月)にこの酒を作っていたとされる。
- 嫫母
中国の神話で黄帝が娶った女性。石板鏡を発明し、叡智を以て重用されたが、その誉れをもってしても挽回できないほど醜かったとされる。
で、蘇軾の号は東坡居士(とうばこじ)。
東坡を中国語読みすると「トンポー」。美味しんぼで「トンポー」と言えば、第13話「手間の価値」に登場した東坡肉(トンポーロー、ブタの角煮)ですよね??
実はこの料理の命名は、蘇軾が左遷で黄州へ赴いた際、豚肉料理について詠じた詩に因むそう。
洞庭湖(太湖)と洞庭山の場所
感じたこと
士郎への大原評が毒舌すぎる
あの男を好きになる御婦人には目の検査をお勧めします、ワハハハハ
には笑いました。
でもこういうことって意外と日常でもあるものですよね。口は災いのもとっていうか、背景を何も知らないまま あんまり滅多なことは言うもんじゃありませんよ、大原社主。
それにしても、大原社主は普段から士郎に散々助けてもらっておいて、よくもまぁ「役に立たない」なんて言えますね。
名台詞
何が人間国宝だよ、芸術作品だ。
元はと言えば、陶人の爺さんが泥を捏ね回して焼いただけじゃないか。そんな物が、人間の命と同じ価値があるっていうのかよ。
人間は必ず死ぬ。死ぬから人間は尊いんだ。陶器だって同じだろ。プラスチックや金物の器みたいに、何をしても壊れない器なんて、有り難くもなんともありゃしない。
この茶碗は、本物の茶碗だから欠けたんだ。儚くて悲しいことだけど、だから美しくて価値があるんじゃないか。
バシっと決めたあと、茶碗に戻る前にいっぱい蕎麦がき作ったろっって言いながら捏ね倒すのが動きも相まってギャップが面白すぎる。
仁木会長も凄い
私は、私は恥ずかしい。いい年をして物に執着しすぎて他人の過ちを許せないなんて、申し訳なかった。
こんな風に素直に自分の誤り・過ちを認めて、その場で仲居さんと女将に詫びることができるというのは素晴らしい。さすが会長になるだけのことはあります。失敗しないに越したことはありませんけど、失敗した後にこういう態度の取れる人間になりたいものです。
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