映画『ぼくを探しに』の感想
映画『ぼくを探しに』をアマゾンプライムビデオで観ました。
概要
タイトル | 原題 | 初公開日 | ジャンル | 時間 | 国 | rating | 制作費 | 売上 | 監督 |
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ぼくを探しに | Attila Marcel | 2013年9月6日 | 音楽映画 | 106分 | フランス | 13+ | 670万ドル | 1200万ドル | シルヴァン・ショメ |
あらすじ
2人の伯母と暮らすピアニストのポールは、2歳の時に受けた「あるショック」から言葉を話さなくなった。
ある日 ポールは下階に住むマダム・プルーストの家で「その記憶を引き出すきっかけ」を得て通うようになる。
ムスティックの意味
映画の字幕を見ているとムスティックという言葉が登場します。これはmoustiqueで、フランス語で蚊を意味します。(ムスティーキのほうが近い発音だとは思いますが)
英語ではモスキート。
マダム・プルーストが持っているウクレレの響板にも白色で蚊が描かれています。最初はヤシの木かと思ってました。下の動画は作中で彼女が演奏しているAir du moustiqueというウクレレの曲です。
ATTILA MARCEL Air du moustique
簡単なコード進行なので初心者にも覚えやすそう。
監督はシルヴァン・ショメ
調べてみたら、『ベルヴィル・ランデブー』(The Triplets of Belleville)というアニメーションと同じ、シルヴァン・ショメ監督(Sylvain Chomet)でした。
『ベルヴィル・ランデブー』を20代前半に観たことがあって、Bach Prelude & Fugue No.2 in C Minor(BWV 847)が印象的でした。しかも私の大好きなグレン・グールドの演奏。
彼も恐らくグールドが好きだからグールドの曲を使っているわけで、今回観た『ぼくを探しに』の音楽も素敵だと私は感じて、要するに彼と私は音楽の趣味が似てるみたい。
シルヴァン・ショメのWikipediaの画像も彼が5弦ベースを構えている姿。
道理で、音楽にこだわりを持っている事が映画を通して伝わってくるわけだと思いました。
ネタバレ無し感想
アマゾンプライムビデオでのレビュー評価がそこまで高くない映画は視聴をよく後回しにするのですが、これは観て良かった。
ただし絶賛推しかというとそうでもない。
観ないと損とまではいきませんが、観る価値がないということは決してない。ただ、特定の属性(国籍、性的マイノリティー)に対する蔑視的表現が目につくのが大きなマイナスポイント。また、「失われた記憶の引き出し方」もそれはどうなんだという方法で、この辺に対して非常に厳しくマイナスを付ける人の心情もよく理解できます。
みんな演技が良い
全員の演技が本当に良い。特に主人公のポールを演じるギョーム・グイが全編に渡って無言ながら、感情の揺れ動きを表現しているのはとても面白かった。
また、大人しいポールとは対称的で破天荒な父親のマルセル役を同時に演じているのもまた面白い。
音楽を楽しめるかどうかに尽きる
どの演奏も本物で、本当に素敵でした。というかこれがメイン。
- 記憶の旅で始まるミュージカル
- ポールのピアノ演奏
- ミシェルの二胡とポールのピアノのアンサンブル
- ウクレレ曲(マダム・プルーストの演奏など)
- コンクールでの演奏
- 雨粒で鳴るウクレレ
YAMAHAや、C. Bechstein(ベヒシュタイン: ドイツの老舗ピアノ製造会社)のピアノが登場したり、ムスティックのエイジングの話をしている辺りに、作品自体が楽器や音楽への愛着を持っていることを感じさせます。
でもこの映画は正直いってストーリー性が弱い。ミュージカル、音楽にはすごくチカラが入っているし俳優陣の演技も素晴らしいとは思いますが、話の展開が弱く、群像劇も入っていて全体としてはまとまりが悪い。
これに輪をかけて音楽の趣味が合わなかったり、(誤解を恐れずに言えば)音楽の教養がある程度無いとつまらなく感じるのも無理はありません。
特に、後半のコンサートは素晴らしいの思うのですがこれを好きになれるかどうかで全然印象が違ってくると思います。アマゾンプライムビデオではアコーディオンの演奏が一部消されていますが、消されていないバージョンがYoutubeにあったので下のネタバレの章に貼っておきます。聴き比べてみてください。 (私はYoutubeのバージョンが好き)
また、私はミュージカル調の映画が苦手で、今まで観た映画だと『ラ・ラ・ランド』、『きっと、うまくいく』、『マンマ・ミーア』とかもついつい飛ばしたくなったのですが、これは完璧に受け入れることができました。音楽が良いお陰というのもあるし、ポールが赤ちゃんの頃の回想シーンとして色彩などにとても統一感があって落ち着く。内容がストーリーに関わっているというのもあるかもしれません。
音楽の質だけで見れば★7.5~8.0だと感じるのですが、他の部分で大きく評価を下げざるを得ません。これはあくまで映画なので。
ネタバレ有り感想
ストーリーの脆弱性
- ムスティックとポールの関係性が分からない
ムスティック(蚊)にまつわるウクレレ、演奏曲。でもその蚊が一体何なのか。ポールに関係があるのか、両親に関係があるのか、ムスティックにこだわる理由が何なのかよく分からなかった。
- ホームレスとの絡みが少ない
両親は壁を壊すよう友人に依頼し、そのせいで部屋の天井が崩れる事故が発生して両親は亡くなっています。友人の男は懲役刑を受けたのちにホームレスとなって現在に登場するわけですが、彼とポールとの展開がないのはちょっとさみしいと思いました。
- マダム・プルーストの話も嫌いじゃないけど少しインパクトが弱い
マダム・プルーストはがん治療のためにカツラを被って生活し、墓には両想いのまま終わってしまった医師からの剥製が備えられててちょっとおもしろかったものの、サイドストーリーとして座りの悪いポジションだと感じました。
ポールが彼女のウクレレを引き継ぐ以上、そこに何かしらのスパイスというか、グッと来るものが欲しかった。
オーケストラとバンドの融合が最高に良かった
後半では、ポールにはコンサートでカエルのバンドが幻覚症状として現れます。クラシックとバンドの融合はとても見応えがありましたが、ちょっと短すぎた。このシーンがせめてあと1,2分でも長かったらもっと楽しめたのに!と思いました。
最初のドラムの入り方からイカしてる。終盤もポールの精神状態の演技と音楽の雰囲気がすごくマッチしてて本当に素晴らしい。(ただラリってるのをそう表現するのが適切かは置いておいて)
CONCERTO DE PAUL musique de Franck Monbaylet
musiqueはMusic(音楽)。moustiqueとスペルが似ててややこしいな!
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