『美味しんぼ』第12話「ダシの秘密」の感想
1989年1月16日放送、アニメ版の『美味しんぼ』第12話「ダシの秘密」をアマゾンプライムビデオで観ました。(美味しんぼTVシリーズ第12話)
もくじ
あらすじ
大原社主が山岡と雄山の仲直りを画策
山岡と栗田が究極のメニュー作りを始めてから3ヶ月頃の話です。
栗田が街を歩いていると、陶磁器や美術品を扱う清亜堂で「新春企画 海原雄山名陶作品 展示会開催中」の文字を見かけます。かに絵まる平向という皿には200万円の値段がついていました。
出先から会社に戻ると、栗田は大原社主に呼び出されます。海原雄山を「究極のメニュー作り」に参画させたいため、山岡士郎と海原雄山の親子仲について聞かれますが、栗田は何も答えられませんでした。
女将を呼べ!
大原社主と谷村部長は、料亭「花やま」に海原雄山を招待して山岡と和解するように正攻法で説得しますが、うまくいきません。
虫の居所が悪くなった雄山は、大原社主に恥をかかせるために何度も女将に料理の作り直しを命じます。
山岡たちの部屋に来た女将が泣いているのを見て、山岡は海原雄山に毎日泣かされていた母親のことを思い出して、女将を助けるために板場に立ちます。
山岡士郎と海原雄山の喧嘩の原因
山岡が幼少の頃、海原雄山は妻(山岡士郎の母親)に何度も料理を作り直させては泣かせていました。そして山岡が中学生になると山岡を無理やり美食倶楽部の板場に放り込み、自分のノウハウを山岡に叩き込みました。
お陰で山岡は本職顔負けの料理の腕を身に着けましたが、彼の十代は雄山の美食の犠牲となり、これらに恨みを抱いた山岡は実家を飛び出す際、海原雄山の絵画や陶器を全て壊していました。
一方、海原雄山は自分の作品を全て壊されたことに激怒し、2人の仲は悪化しました。
雄山は山岡の料理を絶賛
山岡は、魚臭くならないように鰹節の出汁をごく短時間でとり、魚料理の出汁には別の魚の味(カツオダシ)が重なることを避けて昆布出汁だけを使いました。しかし客が海原雄山だとは知らずに、自ら作った料理を海原雄山に供します。
雄山も同様に、山岡が作ったとは知らずに料理を食べ、褒めちぎります。
鰹の出汁は完璧だと絶賛し、更に昆布の出汁については引き出し昆布の技法を使っていることを評価し、その板前に会うために板場に顔を出したところで山岡たちと遭遇します。
山岡が作った料理だと分かった瞬間に海原雄山は批判し始め、大原社主は味覚が鈍感だとして強制的に美食倶楽部を脱会させられます。(理不尽過ぎる)
- 引き出し昆布
鍋の一方の端から長い昆布を入れて、底をくぐらせる程度にごく短時間だけ出汁をとり、もう一方の鍋の端から昆布を取り出す技法。
北大路魯山人が45歳前後の頃に星岡茶寮の会員に配布していた会報星岡で紹介していた昆布出汁のとり方。1
- 星岡
北大路魯山人が星岡茶寮の会員に配布していた会報誌で、130号まで刊行されていた。『美味しんぼ』第2話「士郎対父・雄山」で京極万太郎が料理を食べた店 岡星(おかぼし)は、この星岡のオマージュだと思われる。
- 星岡茶寮
星岡茶寮(星ヶ岡茶寮、ほしがおかさりょう)は、東京都千代田区永田町と大阪府豊中市曽根にあった北大路魯山人が関わっていた料亭の名前。
感じたこと
推察できる栗田の入社時期と入社研修期間
栗田が入社した時期は不明ですが、日本で新卒として入社しているので、4月だと推察できます。その後、新入社員教習を終えてから実務に参加しています。
栗田は実務開始直後から「究極のメニュー作り」に関わっていて、それから3ヶ月が経ったと言っています。
街なかで見かけた「海原雄山名陶作品の展示会」は新春企画であり、街を歩く人の服装も冬服です。また前回11話でも年を越したと言明していることから、入社した年を越していることが分かります。
これらから逆算すると、栗田が配属されたのは10月頃で、入社研修期間が約半年ということになりそうです。(長すぎひん?)
ガラスの破片で鰹節削りってどうなの?
作中、鉋の手入れが疎かだったため、士郎はタンブラーを叩き割って、そのガラスの破片で鰹節を極薄に削り出しています。
この削り方をおこなう料理人はは現実世界でもいます。何かの番組で寿司職人か誰かがやっていたと思います。でもこれってどうなんでしょう??
だってガラス片は適当にパリンと割ったものですよね。それが更に細かくかけたり割れたりする可能性もあります。普通は最後にサラシなどで濾し取りますから、大きな破片が料理に混入する可能性は滅多にないかもしれませんが、微粉までは取り除けないでしょうし、食の安全から言ってこれはタブーだと感じます。
アニメならまだしも、現実世界なら鉋を使えばいいでしょう?
ダシの相乗効果
ちょっと余談ですけど、ダシは複数使ったほうが相乗効果で旨味が最大で30倍にも増すって知っていますか?NHKのガッテン!「干しシイタケ究極活用術」でもやってました。
食材 | 旨味成分 |
---|---|
昆布 | グルタミン酸 |
鰹節 | イノシン酸 |
椎茸 | グアニル酸 |
- グルタミン酸+イノシン酸=うまみ7倍
- グルタミン酸+イノシン酸+グアニル酸=うまみ30倍
干し椎茸を乾燥したままおろし金で粉末状におろして、それを粉のままカレーやアイスクリームに混ぜるだけで旨味効果が得られるという話でした。
本来、干し椎茸を水で戻すには5時間かかりますけど、これなら0分で出来ます。
普通の作り方の鰹節ではないか?
作中で使われている鰹節がどんなものか一切紹介がされていませんが、あれは普通の鰹節ではないでしょうか。ある時は些細なことにまで異常なまでにこだわる美味しんぼですが、こういうところはサラっと流しちゃうんでしょうか。
鰹節の作り方をご存知ですか?素材そのものの扱いはかなり雑です。でもそれは大量の鰹を鰹節にするには膨大な手間がかかるためです。
- 釣り上げる
南方の海洋で獲り、血抜きをしていない状態でマイナス50℃で即冷凍する。
- 水揚げ、選別
重さ3.5~4.0 kg、体長50 cm前後を使用する。
- 解凍
水を流し込み続けてプールで1日かけて解答する。
- 生切り
頭と内蔵だけ取るか、3枚卸しにする。(血合い骨や肋骨は残ったまま)
- かご立て
煮かごに並べる。
- 煮熟
煮釜で90~98℃で90~120分かけて煮る。
- 風にさらす
1時間風に晒して身を引き締める。(なまり節の完成)
- 骨抜き
生切りの工程で残っていた血合い骨や肋骨を手作業で抜く。
- 焙乾(一番火)
85~90℃で1時間かけて熱と煙で水分を飛ばす。
- 補修
翌日、中落ちで作ったすり身を塗って整形する。
- 焙乾(二番火)
セイロに入れ、80℃で1時間かけて乾燥させる。2番~15番まで、焙乾と自然乾燥を繰り返しおこなう。ここまで4~6ヶ月必要。(荒節の完成)
- 表面研磨
1日日光に当て、2,3日おきに表面が湿ってきたら削る。表面のタール分を削ってカビが繁殖しやすくする。(裸節の完成)
- かび付け
2回以上かび付けをおこなって一番カビから三番カビをつける。働きにより、皮下脂肪を減り、乾燥の促進などが起こる。ここまで半年以上必要。(枯れ節・本枯れ節)
完璧に血抜きをしていれば、煮熟の段階では味に違いがあると思うんですよね。血抜きをしているほうが美味しいに決まっています。
その後の工程で味の差がどれだけあるのかは分かりませんが、例えば、熟成してしまえば結局大差がないから省略しているのか、それとも血も熟成によって旨味や風味になるから敢えて血抜きせずに作っているのか。美味しんぼならそういうところまで触れて欲しいですね。
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