『美味しんぼ』第19話「包丁の基本」の感想

2019年11月18日

1989年3月20日放送、アニメ版の『美味しんぼ』第19話「包丁の基本」をアマゾンプライムビデオで観ました。(美味しんぼTVシリーズ第21話)

あらすじ

板前を目指すジェフ

前夜に妻と大喧嘩して虫の居所が悪い富井副部長が、ミスをした栗田に対して厳しく注意していると、そこへ谷村部長に会いたいというジェフが表れます。

ジェフ・ラーソン

ロサンゼルス支局長の紹介で東西新聞社を訪れた眼鏡を掛けた金髪のアメリカ人。日本で板前として修行したいという。

谷村部長は、海外にも支店を持つ日本料理屋をジェフに紹介し、山岡たちもそこを訪れます。

日本料理屋 WEST COAST

谷村部長は、アメリカに支店を5つも出しているWEST COASTはジェフにとってとっつきやすいと考えてこの店を紹介しました。ジェフたちはカリフォルニアロールを勧められますがそれを断ると、刺し身を勧められます。

目の前で捌かれた魚は、包丁パフォーマンスと相まってとても美味しそうに見えました。ところがジェフは「この刺し身は美味しくないからここで働きたくない」と言います。

怒った花板は「そんなに言うなら作ってみろ」と言いますが、山岡も「魚の所為ではない」とジェフの意見に賛同し、一週間後に「フッコの洗い」で味の対決をすることになります。

フッコ

生後2-3年目で40-60 cm程度の鱸(スズキ)の関東地方での呼び名。

鯛ふじでの修行

山岡たちは鯛ふじを訪れます。

大不二清兵衛が氷で締めたフッコの洗いは歯ごたえがシャキシャキしていて、しかも氷を削り出した柳刃包丁には刃こぼれ1つありませんでした。ジェフはこの技を見て弟子入りを申し入れます。そこで清兵衛は、ひたすら大根の桂剥きをするよう指南します。

大不二清兵衛

黒縁の眼鏡をかけた老人男性。鯛ふじの板前。京都弁っぽい言葉を話す。

徹夜して桂剥きが上達したジェフに1人で微笑む清兵衛でしたが、栗田が応援にきた時には厳しく指導します。ジェフが調子に乗って研いだ包丁の刃先は完璧ではなく、清兵衛は「包丁さんが泣いてはる」と表現しています。

対決

1週間の間に、ジェフは柳刃包丁で氷を削り出す技術も身につけていました。そしてジェフの作ったフッコの薄切りの断面は細胞を押しつぶすこと無く綺麗でした。
味もWEST COASTの花板よりも上で、違いに気付かされた花板と社長は心を入れ替えます。

感じたこと

ハラスメント多すぎ問題

冒頭でトミーがくり子を叱責するシーンでは大声で恫喝しているしパワハラで、「いくら女だからって」は完全に女性蔑視だし、清兵衛がジェフに「アメリカに帰れ」という表現もヘイトスピーチです。ナチュラルに言葉の暴力が横行していた時代なんだと感じますね。でも当時から30年ほど経っても、現実世界での進歩があまり見られないというのは本当に嘆かわしい。

ジェフの包丁研ぎ

魚の細胞を極力押しつぶさずに切るには、包丁の切れ味がものをいいます。でも作中ではそれがほとんど描かれていません。
包丁の切れ味を良くするには、番手の大きな砥石で仕上げることに加えて、砥石で小刃を付けずに、ストロッパー(皮砥)で仕上げることだと私は考えています。

興味のある方はリンク先を参照してみてください。ただ、柳刃包丁のように刃身の薄い包丁の場合はストロッピングしにくいし、刃が鈍りやすいように感じます。

魚の活け締めも血抜きも無し!?

これは以前の第4話でも触れた話なので身の断面の話にフォーカスしているんでしょうか。でもやっぱり血抜きしないと臭いですよね。血抜きについては4話の感想を参照してください。

鯉やスズキの「洗い」、「湯洗い」

洗いにする魚と言えば何を思い浮かべますか?私はもっぱら鯉です。

多くの人は「洗い」というと「氷水に浸け込むこと」だと思っていますが、冷凍庫もなく氷が作れなかった古い時代の「洗い」はお湯で洗うことだったんですよね。なので本来は「湯洗い」です。

この動画では、鯉を薄切りにしたあと、手を浸けられるくらいの湯気の立つ温水で30秒ほど洗って、そのあと冷水で締めています。これで身が締まり、泥臭さも消すことができます。お湯の温度は、身の厚さや浸ける時間などによって違うんでしょうけど、50-70℃が一般的なようです。(自分では試したことないから分からない)

釣り人だと、回遊ではない居着きのスズキは見た目が汚いし、臭い河口で釣れるスズキも「身が臭そう・・・リリースしちゃうか」と持ち帰ることを躊躇する人が多いみたいですね。あと鰡(ボラ)もそう。私は彼らを見ていつも「あれを逃がすなんて勿体ない・・・」と思っています。

臭みが心配なら洗ってみてはどうでしょうか。

鯛の兜割り

ラストの場面で、山岡たちが再び客として訪れると、ジェフは鯛ふじで修行を続けていました。

清兵衛から鯛の兜焼きの仕込みを頼まれたジェフでしたが、兜割りが出来ずに山岡に割ってもらっています。でもこのシーンで山岡は顎まで一発で割っていますが、個人的にはこの方法は危ないし難しいと感じます。士郎だから出来るんでしょうか?通常は上顎から脳天までを割って、その後で下顎を割ります。

下の動画は綺麗に割っていて、しかも左に流れやすい片刃の出刃包丁のクセも解説しています。私もブリとか鯛とか釣って自分で兜割りする時に同じ感覚を持っていて、とても納得できる内容です。

最後の部分で背骨に当たると切れなくなってしまうので、かわす必要があります。

また、下の動画では兜割りに加えて湯引きの仕方も丁寧に解説されています。